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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第27話 地ならし

挿絵(By みてみん)





 聖エルモ砦、南西部。倉庫。


「おいおい……逃げるだけで精一杯かぁ? ドサンピンが!!!」


 手広い倉庫内に飛び交うのは暴言と、鋭利な石柱。


 銀髪修道士は両手を地面に当て、意思能力で攻め立てる。


「――――」


 長刀を扱い、迫り来る石柱を次々と切断。


 仰る通り逃げ回っているだけだが、予定通り。


 倒すのが目的ではなく、足止めが我の役割だった。


「挑発に効果なし、と。それなら――」

 

 すると、声のトーンが変わり、彼は地面から両手を離した。


 軽く肩をならし、何か別の策を試みようとするのが見て取れる。


「――秘剣・虎切り」


 思考より先に体は動き出し、手の内の一部を見せた。


 袈裟懸けに刀を振るい、生じるのは意思で形作られた虎。


 実寸台の獰猛な獣が地面を駆け、銀髪修道士へと牙を剥いた。


「虎、如きに――っ」


 反撃に出ようとするも、初速で上回る。


 虎は相手の右腕に食らいつき、頭を振るう。


 並みの使い手なら片腕を失うが、果たして……。


「――――」


 聞こえてきたのは、彼が地面に倒れ込む音だった。


 仰向けの状態で右腕を突き出し、虎の猛威に耐えている。


 能力を使った形跡はなく、攻防力移動のみで被害を防いでいた。


(能力頼りというわけでもなく、基礎戦闘力も高い。肉体かセンス……どちらに依存しているものかは判別不能だが、虎の咬合力で貫けぬのなら基礎修行を怠っていない良い証拠。とはいえ、付け入る隙がないわけでもない)


 冷静に分析を重ね、虎を維持したまま距離を詰める。


 長刀の間合いに入り、狙い定めるのはセンスの薄い箇所。


「――――」


 攻防力の配分を見極めた上で、振るうのは横薙ぎ。


 胴を真っ二つにする勢いで、刃を真一文字に動かした。


 刀身には全センスを集中させ、決め切る覚悟で攻め入った。


「使役できる動物は一体まで。俺の骨をしゃぶってるうちは新しいペットを出せない。そうだよなぁ、ササキィィイイイイイイイ!!!!」


 死闘の狭間で聞こえたのは、修道士の指摘。


 刃が胴を断つ時間を遥かに上回る発言量だった。


 時間が圧縮された可能性もあるが、この場合は……。


「――――――っっっ」


 理解するより先に目に入ったのは、折れた刀身だった。


 多量のセンスで覆い、身体より強固だったものが砕け散る。


 残った刃が修道士に届くわけもなく、斬撃は空振りに終わった。


「…………」


 すかさず距離を取り、起きた事実を冷静に見る。


 元いた場所には、細長い石柱が天井から伸びていた。


 出力は最小限。気付かれないよう刃の側面を狙い打った。


 刀は横からの衝撃に弱く、全センスで覆っても脆いと読んだ。


(行動と能力を読めていたなら、なぜ……)

 

 理解できないのは、本体の我を狙わなかったこと。


 わざわざ刀ではなく、意思の薄い箇所を狙えば勝てたはず。


「解せねぇって面してんな。理由を教えてやろうか?」


 虎を幾多の石柱で串刺しにした修道士は、余裕を漂わせ、尋ねる。


 挑発のつもりか、親切心で言っているのか。どういうつもりかは不明。


「肉体ではなく、武士の心を折る。それが目的か?」


 頭を垂れ、教えを乞うような真似はせず、自分なりの答えを導く。


 当然、一瞬たりとも気を抜くことはなく、次なる一撃に備えていた。


「いいや、ちょいと違うな。俺はその先が見たい。表面だけ取り繕った薄っぺらいキャラ付けには興味ねぇんだ。お前、もっとやれんだろ? 武士っぽい見た目はミスリードなんだろ? 刀には微塵も愛着はねぇんだろ? 本性は別にあるんだろ? ……なぁ、名も知れない帝国の陰陽師!!!」


 銀光を迸らせ、修道士は確信めいた予想を告げる。


 我は後ろ髪を結ぶ赤紐をほどき、長い黒髪を解放する。


 同時に全身から溢れ出るのは抑圧されていた異色のセンス。


 従来の青色のセンスの上に赤い光がかかり、紫色に染め上げる。


 多重構造的進化。前提の先にある本性。武士とは一線を画する領域。


「十引く一は九字。佐々木(ささき)小九郎(しょうくろう)とでも名乗っておこうか」

 

 性格が一変するということもなく、言葉遊びに興じる。


 聞かれたことにだけ答え、必要以上に情報は与えなかった。


「あくまでササキはササキのままってか。弱っちい苗字のままじゃあ、俺には勝てねぇんじゃねぇのかな!!!」


 両手を合わせ、握り込み、修道士は意思能力を発動。


 今度は情け容赦なく、全方位から鋭利な石柱が迫っていた。


 放置すれば虎と同じ末路を辿る。串刺しの刑に処されるであろう。


天元てんげん行躰ぎょうたい神変しんぺん神通力じんつうりき


 詠唱と共に、折れた刀の切っ先で左腕に漢字を刻む。


 総文字数は九字。その不必要なこだわりが能力に変わる。


「――ッッ!!?」


 目を見開く敵の姿が見えた。額から冷や汗が浮き出る様子が伺えた。


 滑稽な光景を前に思い浮かぶ感想はなく、石柱はものの見事に砕け散る。


 それを横目で見ながら、我は折れた刀で地面に文字を刻み、能力を行使した。


「――【勾陳こうちん】」


 詠唱と共に生じるのは、彼と同じ系譜の技。


 先が丸まった石柱を無数に生み出し、迫らせる。


「ササキ如きが!! 俺を舐めんなぁぁぁあああああっっ!!!!」


 意図を察した修道士は、石柱の打ち合いに臨んだ。


 迫り来る我の石柱を迎撃する形で、次々と放っている。


 先が鋭利な相手方が有利に思えたが、現実は非情であった。


「地の一芸特化でコレか。才能というものは残酷であるな」


 視線の先に見えたのは、痛々しい打撲痕が顔に残る修道士の姿。


 その周囲には、彼お得意の石柱が折り砕かれ、無数に転がっていた。


「こん……ちく、しょう………」


 俗っぽい台詞を吐き、彼は才能の残骸に倒れ込む。


 特にかける言葉もなく、我は赤紐を結び、再び武士を装った。

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