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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第25話 意思能力戦②

挿絵(By みてみん)





「……」


 聖エルモ砦内、南東部の廊下で相対するのは少年少女。


 金髪の方がルーチオ。能力は影。不規則な動きには要注意。


 黒髪の方がリリアナ。能力は魅惑。接触と甘い言葉には要注意。


「合わせろパート2だ! リリちゃん!」


「……だーめ。ルー君はもう少し地頭使わないとね」


 愚直な連携には改善の兆し。


 リディア様の言うように将来は有望。


 放置すれば、いずれ厄介になるのは目に見える。


 ――とはいえ。


「…………」


 身に纏うのは、大人げない多量の黒いセンス。


 手加減するつもりは毛頭なく、最速でご退場頂く。


 正直、相手の生死に気をかけられるほどの余裕はない。


 陛下との合流が最優先事項であり、それ以外は全てが障害。


「――展示物立体表現技法ジオラマディスコ


 懐から取り出した三台のミニカーに、息とセンスを吹き込む。


 流れるような動作で振りかぶり、迷うことなくそれらを投擲した。


 ぐるりと空中で一回転したタイミングで巨大化し、二人へ襲い掛かる。


「いっ!!?」


「なんの……こしれき!」


 直撃を食らうルーチオに対し、リリアナはスライディングで回避。


 仲間を助けなかったところを見るに、どうやら個々で戦うつもりらしい。


(相方を頼らず、接触による魅惑に専念。思い切りは二重丸ですが……)


 思考を整理し、次なる投擲物を右手に補充。


 個数と質量が控えめなら、同じ動作で詠唱破棄が可能。


「――――」


 息とセンスを吹き込み、迫るリリアナにすかさず投げつける。


「にゃん!?」


 否応なく密閉された空間に押し込め、閉じ込めた。


 ごろんと長方形の物体が転がっていくのを横目で見る。


 透明なガラスと赤い鋳鉄製の枠の中にリリアナは囚われる。


 選んだ展示物は――『電話ボックス』。


 古き懐かしい公衆電話が、無機質な透明の箱を彩っている。


 簡単に出られないよう細工済みで、彼女の膂力なら脱出不可能。


(残るは一人……)


 手札を温存するべく、辛くも耐えているであろうルーチオの下に駆けた。


「――――なんのこれしきだよ、リリちゃん!」


 随分前に思える発言に、ルーチオは訂正を促した。


 のしかかる車を払いのけ、全身に黄色の光を漲らせる。


 どんな合図を送ろうとも、一対一という構図は揺るがない。


「…………」


 車の対応に割かれた時間とセンス。


 その間隙に叩き込むのは、容赦ない殴打。


 受け切れないよう無差別な部位に拳を叩き込む。


 何かポロリと懐から落ちたように見えたが、関係ない。


「――かはっ」


 ルーチオの口から漏れ出るのは、空気。


 本来なら血反吐を吐いてもおかしくない連撃。


 恐らく、急所を重点的にセンスで防御していた賜物。


 計算尽くというより、天性のもの。直感に近い領域のはず。


(ここで折り砕いておかなければ、いずれ……)

 

 拳を連ねるごとに、その精度が増していくのが分かる。


 今は自分で自分のことを理解していない、眠りし獣の状態。


 時間をかけて長所を理解し、花開けば、抑えつけられなくなる。


展示物立体ジオラマ……」


 未来の強敵と認識し、若い芽を摘む覚悟で懐に手を伸ばす。


 予備動作による休憩時間インターバルがあるものの、これだけ叩きこめば……。


「残影、転掌っ!!!」


 しかし、見事にも耐え切ったルーチオは右の掌を放つ。


 食らえば恐らく電話ボックス内に移動し、リリアナと接触。


 少女にたぶらかされ、心身を掌握される末路が目に見えていた。


「まだ青い!!!!」


 即座に詠唱を中断し、後ろへ距離を取る。


 無理せず直撃を避け、仕切り直せば勝てる相手。


 目論見通り、放たれた掌は空を切り、床に打ちつける。


「「「…………」」」

 

 そこで攻防は一区切りつき、場に満ちるのは静寂。


 相手の切り札は空振り、圧倒的優勢の状態で向かい合う。


「辞世の句があるなら詠んでみるのがよろしいかと」


 求めるのは、戦いを締めくくる言葉。


 九分九厘、勝ちは揺るがず、情けをかけた。


 舐めている、というわけではなく、むしろその逆。


 才能を開花しつつある相手への最大限の賛辞でもあった。


「なら、お言葉に甘えて…………頭上にご注意だ!!!」


 ルーチオが発したのは、勝ちを諦めない一言。


 真実にせよ、ハッタリにせよ、それは大きな動を生む。


「―――ッッ!!」


 すかさず上を向き、何らかの能力を警戒する。


 仮にフェイクでも、後から対応できる自信があった。


(これ、は……)


 しかし、目に飛び込んできたのは、予想外の物体。


 指摘通りに何かあったのに加え、思いもよらぬものが落下。


 一瞬、目が奪われ、判断能力が著しく低下していくのを肌で感じた。


『リリにトキめけ。――姫電話トゥインクルナイト!!!』

 

 響いたのは、密閉空間にいるはずの少女の声。


 遅れて肉体は動き出し、上空の落下物を拳で破壊。


 バキリと音を立てて砕け散ったのは、携帯電話だった。

 

 恐らく、公衆電話から通話をかけ、ルーチオが移動させた。

 

 開幕から共闘の線を薄くし、展示物に適応した上で裏をかいた。


 ――見事な連携プレイ。


 打ち合わせる暇などなかったはずの、即席のコンビネーション。


 いや……『これしき』の時に、二人は通じ合っていたのかもしれない。


「――――――」


 理解したと同時に、心臓がトキめくのを感じる。


 柄にもなく、一人の少女のことで頭がいっぱいになっていく。


「なんなりとお申し付けください、王女殿下」


 気付けば膝を折り、能力を解除し、仕えるべき主人を解放する。


 全面的に屈服し、リリアナ殿下の勝利を自分事のように誇らしく思う。


「ルー君なら伝わると思ってた」


「リリちゃんなら伝わると信じてた」


 彼女が向かう先は、星のように煌めく騎士のもと。


 二人は手と手を合わせ、軽快な音を廊下に奏でていった。

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