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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ
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第18話 王手

挿絵(By みてみん)





 突如訪れた停電。それは、宮殿内のみならず、首都バレッタ全域に広がった。地響きを伴い、市民とマルタ騎士団の混乱を生む。いかな手練れであろうとも、理解のためにコンマ数秒の遅れを生む予期せぬ災害。それをあらかじめ予期していた場合、総長グランドマスターならびに大宗務長グランドコマンダーであろうとも反応できない黄金時間ゴールデンタイムが存在していた。


「――――」


 0.1秒。不可避の間隙にカルド枢機卿が謁見の間に形成したのは、黒い結界。意思の力を基盤とし、繊細な出力コントロールによって空間を自在に区切り、様々な条件を課す術。いわゆる、結界術と呼ばれるものを披露していた。


 危惧していたのは、初動を止められること。四隅にセンスを展開し、正方形が作られるまでの間に干渉されれば、ひどく脆い。停電が伴わなければ、術者か結界の土台に攻撃が加えられ、展開を真っ先に阻止されていただろう。


 場合によっては、一撃必殺。


 場合によっては、一生捕縛。


 可能性は無限であり、勝敗に直結する要素になり得る。だからこそ、煮詰まった意思能力戦では一、二を争うレベルで警戒され、熟達した手練れにはまず通らない。そもそも通る状況だったとしても、普通はやらない。白教の枢機卿という立場でマルタ騎士団の総長に牙を剥けば、冗談では済まされない。


「貴方が先に手を出された。その意味はお分かり?」


 黒い結界の中で、赤いセンスを滾らせるのは大宗務長。


 隣の玉座に座る白銀の鎧を着た総長は、沈黙を貫いている。


 自分含め、結界内には三名が収容。その他諸々は結界外にいた。


「いいや、先に手を出したのはそちらだ。妻の仇は取らせてもらおう!」


 私は両手の指の間に六本の黒い螺子ネジを生成し、迷わず投擲。


 もう後戻りはできず、目下の障害となる大宗務長の排除を優先した。


「ちっ」


 舌を鳴らす音が聞こえ、元いた地面には螺子が突き刺さる。


 すでに彼女は射線上から姿を消し、背後に回り込む気配があった。


「「――っ!!!」」


 振り向きざまに左足で蹴りを放ち、右拳を叩き込んだ。


 体術は相打ちの状態で、黒と赤の異なる閃光がほとばしる。


 それにより、おおよその敵の力量を察し、得意系統を絞り込む。


(肉体系だな。体術は五分、センスは私が上、筋肉量では不利か……)

 

 病的にやせ細った身体では、相対的に劣る。肉体での勝負には限界がある。拳を弾いた反動で距離を取り、黒い螺子を再び六本生成して、早々に見切りをつける。遠距離戦に持ち込めば有利。接近戦に持ち込まれれば不利という図式。


 勝敗を分けるのは――いかに距離を詰められないか。


 射程外から黒螺子を投擲し続け、ジワジワと体力を削り、強みを一方的に押しつけるのが理想の展開と言える。どこかのタイミングでガードせざるを得なくなり、その時こそが勝負の分かれ目となるだろう。……その逆もしかり。


聖十字礼装サント・クローチェ――【拳天槍牙ロンギヌス】」

 

 彼女の両手に纏われるのは、赤色の両手甲。その先端部分には、パイルバンカーの如き突起物が見え、距離を取った私に照準を合わせている。響く音色には心当たりがあり、能力と背景を理解できてしまったからこそ判断が遅れた。


「……磔の刑に処す(ペルフォーラロ)!!!」


 両手甲から放たれた二つの突起物は、私に向けて飛翔。ワイヤー式のアンカー構造になっており、意図した通りになってしまえば、その末路は目に見えていた。回避を優先するも、追尾する仕様になっており、振り切ることができない。


 ――それなら。


「………………」


 わずかな間隙に、二本の太い黒螺子を生成し、両手で握る。


 彼女とは真逆の方向に投擲し、その間にも突起物は迫ってくる。


 肉薄と言えるラインまで接近し、回避困難な状況を自ら作り出した。


 ――だが。


「…………ッッ!!!」


 顔を歪めた大宗務長は、身に迫った突起物の方向を転換。


 得体の知れない黒螺子から総長を守るために槍を飛翔させる。


 ――生じたのは致命的な隙。


 彼女の両手は塞がり、回避できる方向は限られる。


 すぐさま六本の黒螺子を生成し、逃げ道を塞ぐよう投擲。


 総長はともかく、大宗務長との決着は片が付いたと思った矢先。


「……っっ!!?」


 目の前には、反対方向にあったはずの飛翔する突起物。想定外の展開に回避が間に合わず、片方の槍が私の右腕を貫く。ジャキンと音を立て、肉を貫いた突起物は十字型の槍に変化。釣り針のような要領で引っかかり、簡単には抜けない形状。


(いつの間に移動を……。いや、そういう次元ではないな。安易に浮かぶのは、対象の位置を入れ替える能力だが、それも納得がいかない。総長が操る能力が、そんなチンケなものであっていいはずがない。もっと崇高で神秘的。世界の真相に迫る能力だと仮定するなら……)


 キュインと音が鳴り、大宗務長の右手甲と槍を繋げるワイヤーに引き寄せられながら、能力を考察する。回避不能の状況に陥りながら、思考に没頭する。反撃に転じたとしても意味がない。恐らく詰んでいる。何をやっても結果は変わらない。


「悔い改めなさい!!!」


 密着状態で放たれたのは、渾身の左アッパー。


 視界が明滅し、私の二度目の復讐は失敗に終わる。


 だが、前回と違って何も収穫がなかったわけじゃない。


(総長の意思能力は……因果の、入れ替え――)


 結論に至り、バタンと音が鳴る。そこで私の意識は途絶えた。

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