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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第148話 対天使

挿絵(By みてみん)





 正常の魔眼にはインターバルが存在する。連続で発動することはできない。それはジュリアの身体を介して理解していた。だからこそ、目に見えて分かりやすいブラフをかまし、先に使わせた。魔眼のインターバル中に次の本命を難なく通し、脱出できた。ここまではいい。ここからが問題だ。


「…………」


 ワタシは悪魔の羽根を使い、飛翔する。一つになりつつある狂った首都を移動する。空中に関しては、翼のない人間に後れを取るわけがなかった。重力と空間を扱う総長に関しても対策済みであり、恐るるに足りなかった。とはいえ、逃げたのは事実であり、生前葬により天界に送り返される可能性があるのもまた事実。


 考えるべきは、総長をいかにして篭絡させられるか。物理的な勝利に意味はなく、精神的な屈服をさせることにより、ワタシの勝利条件は満たされる。状況を事細かに知っているわけではないものの、この場にいる人間の相関図は分かる。その99%に意味はなく、フォーカスすべきは結果に直結する残りの1%であり、総長の因縁を辿れば、自ずと答えは見えてきた。


「「…………」」

 

 降り立った先には、青髪の女性が胡坐の体勢で座っていた。目と目が合った。彼女は立ち上がり、ワタシを敵だと認識した。頭に浮かんでいる白い輪っかのせいか、それとも、魂レベルでジュリアとは異なると判断されたのか。いずれにせよ、彼女は気付いた。白色のセンスを纏い、敵愾心を露わにした。


「今、ピリピリしてんだ。邪魔すんだったら、殺すぞ」


 脅しやハッタリとは思えないほどの意気を込め、ラウラは言い放つ。それに呼応するように周りにいた二人と一匹はセンスを纏い、辺りは剣呑とした雰囲気に包まれていく。慎重にならざるを得ない状況であり、一挙手一投足に重い責任が伴う。裏を返せば、この場の空気を握っているのは間違いなくワタシであり、奇しくもそれはワタシの能力のパフォーマンスを本質的に引き上げた。


「――露見」


 意思能力『祝詞のりと』。二字熟語に集約された言葉を神への祈りに変え、実現させる力。対象へのセンスの押し引きに勝つか、場の主導権を握っていることで発動する。今回の場合は後者であり、半強制的に適用される。


「僕はジェノαと戦う。それ以外考えてねぇ」


『ニャーオ』


「俺はラウラの死を止める。未来から来たのは嘘だ」


 ラウラ、ジャコモ、灰色猫は能力にかかり、隠していた本音を吐露する。読め取れない言語が含まれていたものの、概ね予想通りの反応を示した。動機さえ把握しておけば、総長を掌握するのは容易であり、今後の見通しは立った。今のを材料にラウラに取引を持ち込めば、まず間違いなくワタシの勝利は確定する。唯一の懸念点があるとすれば……。


「――お前、名は?」


 ワタシは『祝詞』が通じなかった唯一の人間に視線を送る。そこにいたのは、執事服を着た黒髪オールバックの老人だった。全く注目していなかったダークホース的な存在であり、ワタシの能力に対して何らかの対策が施されている。


「セバス・アンダーソン。イギリス王室直属の最上級秘書官」


 名乗りを上げる共に、セバスは白の布手袋を外し、右手の甲を見せる。そこに刻まれているのは魔法円。二重円の中に五芒星が幾重にも連なった構造で、細部に反転したエノク語が刻まれている。人類最古の天使召喚に用いられたアメエトの印をモチーフとし、天使に由来のあるエノク語を反転させることで、対天使に特化した効果が見込まれる。事前に準備していなければ、用意できない代物。神でも悪魔でもなく、天使と決め打ったからこそ、ワタシの『祝詞』は通用しなかった。それが余計にワタシの興味関心をそそる。下手をすれば、総長に匹敵する逸材。


「――要望があれば聞こう」


 貴重な時間を割き、耳を貸してやる資格は持っていた。向こうの心情は知る由もないが、少なくとも、天使と対等に話し合えるだけの力量は備わっている。ワタシの見立てでは先ほどの軍勢と同等か、それ以上もあり得ると判断していた。


「手合わせ願えますか? 貴方は邪魔なので」


 再び布手袋を装着したセバスは、心情を露見させないまま、要望を告げる。まず間違いなく、他にも手札を隠し持っている。この展開は用意周到に計画されたものの一部であり、対天使用に特化したものがあの老体に仕込まれていると思っていい。あまりにも不利なマッチアップ。損得だけで物事を考えれば、ワタシは損をする。


「――受けて立とう。――超常決戦といこうか」


 しかし、悪魔の身に宿るワタシの欲望は、損得を凌駕した。


 ◇◇◇


 この日のために準備を重ねてきたのは間違いないが、実際のところ、こうなるとは思わなかったというのが、わたくしの素直な心情だった。というのも、全てが狙い通りというわけではなく、わたくしにとっては昨日、世界にとっては明日の出来事とは全く違う展開が訪れている。少なくとも、天使化したジュリアとは戦闘することはなかった。準備してきたものが披露されることはなく、終焉を迎えた。ただ、過ぎたことをとやかく言っても仕方がなく、わたくしが知り得る未来は変えることができる。となれば、やることは一つ。舞台が整ったのであれば、最善を尽くすまで。


「参ります」


 黒色のセンスを纏い、わたくしは懐からナイフを取り出し、右手に装備した。グリップポイントと呼ばれる形状の一種であり、刃の先端が湾曲して落ち込むようにデザインされている。派手さや奇抜さに欠けるものの、切断と刺突の両方に適した形状という実用的で合理的な構造が、わたくしの琴線に触れた。


 ただ、それだけでは天使に通用しない。長年、愛用したことによる類まれな技量を発揮できたとしても、刃が通らなければ意味がない。そこでわたくしは、ナイフにギミックを施した。対天使に特化した術式を刻んでおいた。


「――――」


 わたくしの強い殺意に応じ、刃全体に黒炎と思わしきエフェクトが伴う。天使の目の色が変わった。脅威と認定した。意識の大部分がナイフに向いた。


「――っっ!!」


 天使は右手の指先を向け、一点に集約された緋色のセンスを飛ばす。わたくしに刻まれた魔法円を警戒してか、『祝詞』に頼ることはなく、基礎的な攻防で戦うべきだと判断したらしい。間違ってはいないが、あまりにも直情的すぎる。


「………」


 わたくしは用意したナイフを易々と手放した。レーザー状のセンスが刃と接触し、あっという間に溶けていった。勿体ないという感情は、今のわたくしにはない。出し惜しむことにより、何も得られなかった辛さを誰よりも知っているからだ。


 得物の喪失を歯牙にもかけず、わたくしは懐に手を伸ばす。類まれな強さと能力によって慢心し、肥えに肥えた心の贅肉が基礎的な攻防への致命的な遅れを生む。


展示物立体表現技法ジオラマディスコ


 放り投げられたのは、ジオラマ化したバロック様式の建物だった。外部だけ真似ても意味はない。屋根と壁と窓があり、雨風を凌げる程度だと思われるだけなら価値はない。だからわたくしは細部まで作り込んだ。内装の一つ一つにこだわった。そこまでやって、意思能力は発動する。意図した通りに機能する。装飾に実用的で合理的なデザインが組み込まれていたからこそ、対天使用の舞台は整った。


「「――――」」


 巨大化したジオラマは、わたくしたちを閉じ込める。ラウラやジャコモや灰色猫を巻き込んで、マルタ共和国に実在する建物が成立する。全体には金装飾が施され、天井には絵画が描かれ、赤を基調とした長椅子と白の祭壇が配置される。長椅子には大量の猫が待機しており、賛美歌の指揮者がタクトを振るうのを待っていた。


「わたくしたちの生前葬を始めましょう。言葉も意図も分かりますね? アウロラ・ルチアーノ」


 期せずして揃っていた最後のパズルのピースに、わたくしは声をかける。


『ニャア』


 言語は分からないものの、肯定的なニュアンスであることは伝わった。

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