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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第145話 タイトルマッチ

挿絵(By みてみん)





 僕と本気で戦えるのは、一生に一度あるかないか。正直、その言葉にグッときた。立場やしがらみを抜きにしても、その認識は正しいと感じた。僕をそそのかし、勝つための口実だとしても、なんら後悔はなかった。


「「――――」」


 どこぞの道路上で、僕は白銀の鎧を纏ったジェノαと目を合わせる。センスはさっきの比じゃねぇな。数字で換算するなら常時3万~4万ってところか。単純計算で十倍だ。肉体系様様というか、本気のジェノは相変わらず凄ぇというか、身震いしちまうほどの圧倒的なセンス量。体調万全の今の僕が張り合っても、半分ぐらいがやっとだろう。条件次第では一時的に超えることは可能だろうが、それはジェノαの土俵であって、僕の土俵じゃねぇ。得意不得意ってのは人によって違うんだ。本気で勝つつもりなら、量で勝負すべきじゃないってのは少し考えたら分かる。


 僕は感覚系だ。感覚に特化したものが得意分野だ。どこを尖らせたいかは人によるだろうが、外向きのエネルギーじゃなく、内向きのエネルギーを極めたいと決めた。それが仮に体系化された理論からズレていたとしても、僕は意見を変えないだろう。正しいか間違ってるかは僕が決めることであって、周りが入り込む余地なんてない。好きか嫌いか、自分の肌に合ってるかどうかって感覚は、極めて主観的だ。結果が出ないうちは話したところで理解されないことが多い。相手によっちゃ、僕に付け込む隙を与えることになるだろう。こっちの方が正しい、お前は間違ってるとか何とか言って、僕の心情を無視した正論を押し付ける。そういうやつって、論理的知能は高いのかもしれねぇが、感情的知能は低い傾向にあるんだよな。……まぁ、人に恵まれたおかげか、ゴチャゴチャうるさい外野は身内にいなかったわけだが、絶対に口出しはさせねぇ。僕の成長方針だけは譲ってやらねぇ。一般的には……なんて言葉は糞食らえだ。それを超えるために僕はここにいる。世間一般の物差しで測れないからこそ、この場に立っている。


 目指すは、『超常の王』だ。


 今、決めた。親父のこととか教皇の立場を抜きにして、個人的にやりたいことだ。僕が知る限り前例がなく、前途多難に思えるが、ないなら作ればいい。誰もが納得する実績を掲げて、世間を納得させればいい。僕が声高に成果をアピールする必要なんてねぇ。広告やCMに大金突っ込んで得た名声に意味はねぇ。他の追随を許さない圧倒的な結果さえあれば、勝手に伝わる。僕がいちいち口にしなくとも、噂は広がる。見る目のある奴らが僕を見つける。この戦いに勝てば、夢に大きく近付く。いわば、超常級のタイトルマッチ。そのチャンピオンに君臨してるのが、ジェノαだ。相手にとって不足はねぇ。体調も申し分なく、状況も舞台も観客も全てがパーフェクトだ。一生に一度あるかないか……この幸せはじっくり堪能しねぇとな。


「勝敗をつけるにあたって、何か追加しておきたい条件はあるか?」


 人の言葉を取り戻した僕は、念入りに確認する。後でああしとけば良かったなんて思いたくはない。徹底的に条件を整える。有耶無耶な終わり方だけは絶対にさせねぇ。向こうもそれを望んでいるはずだ。勢い余って殴りかかりたいところだが、ここは内圧を高め、誰がどう見てもフェアだと言える対決を実現する。


「殺しはなし。気絶したら負け。他は何でもあり」


 ジェノαが告げたのは、極めてシンプルなルールだった。従来のタイトルマッチに比べりゃあ、反則がない分、過激ではあるんだが、これでいい。大怪我をしたところで、治せるやつがいる。死ななければ安い。生きていればどうとでもなる。


「おーけー。それでいこう。文句は言いっこなしだ」


「うん。お互い全力を尽くそう。諸々の事情は後回しだ」


 僕たちの足並みは完全に揃い、いつでも戦いを始められる状態になる。ふと僕は自分の身なりを一瞥した。恰好は水中都市の時と同じで、白のカッターシャツと白のスラックスを着ていた。おもむろに左ポケットへ手を突っ込み、取り出したのは左利き用の裁ちばさみ。人間形態における慣れ親しんだ戦闘スタイルってやつだった。


「お言葉ですが、総長グランドマスター……」


 そこで口を挟んできたのは、大財務長グランドトレジャラーだった。僕を猫から人間に戻したんだ。話に一枚噛む資格は持っている。お節介かなんなのかは分からねぇが、耳を傾けてやりたい気持ちはあった。ただ、まぁ……勝負を止めるつもりなら、答えは目に見えているんだがな。


「僕は今から彼女と謁見する。文句は言わせないよ」


 展開を先読みしたジェノαは、言葉を遮り、ピシャリと言い放つ。勘違いじゃなければ、黙れというニュアンスが含まれている気がした。それが火の球ストレートだったのか、大財務長を含めた場にいる三名は口を閉ざし、黙認する。驚いたような表情を浮かべたやつもいたが、まぁ、誤差だろう。勝負には直接的に関係ねぇ。かといって、いなくていいってわけでもなく、目撃者が必要だ。戦いを見届け、噂を伝え広める観衆が僕の目的のためには必要不可欠だ。彼らはその役割を担う。勝負に必要な条件を整え、役者はこれで出揃った。残すべきは……。


「部下がお手数をおかけした。これで準備はいいかな。ラウラ・ルチアーノ」


「あぁ、これで後顧の憂いはない。勝負開始だ。ジェノ・アンダーソン!!」


 互いのセンスは最高潮に達し、僕は堂々と宣戦布告する。正面から仕掛ける……なんて愚策を取ることはなかった。これまで色々と戦闘を重ねて思ったことだが、僕はどうやら後手に回る方が向いているらしい。意思能力の性質上、後出しに特化しているのもそうだが、性格由来のものかもな。なんにしても僕は、ジリジリと間合いを計り、ジェノαの出方を伺った。能力は知っている限りで三つ。『重力』『空間』『因果逆転』だ。個人技か白銀由来かは置いといて、体力気力が全快になった今なら複合技を仕掛けてくる可能性が極めて高い。大技だろうがなんだろうが、目に見えるものなら切り取って終いだが、目に見えないものは対処しづらい。特に『空間』と『因果逆転』に関しては相性最悪だろうな。実体がないから捉えにくい。……まぁ、色々と試してみたいことはあるんだが、ここは様子見一択だ。


「――――」


 十二分に状況を整理し終えたところで、ジェノαは動き始めた。軽やかな身のこなしで、道路と周囲の建物を超高速で移動し、的を絞らせないようにしている。まぁ、このぐらいやれて当然だわな。特に驚くことはなく、迫り来る一撃に神経を尖らせていた。そんな中、僕は些細な違和感を感じ取る。本命のための助走にしては長すぎるという点だ。僕の目と感覚をそれだけ高く評価しているのかとも思ったが、ここまでくるとうざい。煽り運転のような鬱陶しさがあった。後手に回り、トロトロしている僕を馬鹿にしているような印象を受ける。ジェノαがそんなことをしない人間なのは分かっているが、こいつは戦闘中だ。何らかの意図があると考えていいはず。……だとしたら、なんだ。あいつは何を狙っている。


「……っっ」


 思考の狭間、全身に襲い掛かってくるのは異様な重さだった。勘違いでも何でもなく、僕の周囲の地面に亀裂が走り、体勢が保てなくなっていく。状況の変化に気付いた近くの三名は大きく距離を取り、屋上に移動したのが見える。これが、初撃。全力状態のジェノαが放った最初の技。拳で触れる必要はなかったんだな。溜めを作る時間さえあれば、発動は可能だったんだな。


 僕は沈みつつある身体を無理やり動かし、ギロリと上空を睨みつける。そこには、空中に浮遊する白銀の鎧の姿があった。さっき移動していたのはデコイってやつだ。超高速で移動することによって残像を作り、本体は上空に移動して、重力の溜めを開始していた。本来なら感知できたはずなんだが、対象の距離が遠いのと、ジェノαのセンス量が多すぎて、残り香がきつく、鼻が鈍った。移動によって奴のセンスが周囲に散布され、チャフグレネードのような役割を果たしていたようだ。そこまで計算済みなら恐れ入ったな。並みの使い手なら、これで詰みだろう。重力に抗えず、地面に突っ伏して、気絶した時点で終了だ。その光景が目と鼻の先にあるのが分かる。気を抜けば一瞬で意識が飛んじまう。


 ……だが、ジェノαは知らない。猫だった僕がどんな能力を発揮していたのかを分かってない。今もなお展開され続け、僕の熱を高め続ける能力の本質に気付いていない。意思保存の法則(エクスマギア)によって維持される【断熱圧縮】は、未だ健在だ。後は見れば分かるよなぁ! ジェノ・アンダーソン!!


「――――!!!」


 僕は心の中で敵に問いかけ、重力がかかった状態で跳躍を開始する。ギチギチと嫌な音を立て、僕は上空に向かう。身体から蒸気を発し、血液が巡り、骨と肉と神経がこれまでになく昂ぶっていた。容器に限界があるのは分かってる。受けすぎれば破滅をもたらすのは察しがつく。だが、そこに興味関心はない。安全圏を気にしている余裕なんてない。後のことなんて知ったこっちゃない。どこまで高みに昇れるか。どこまで実力を引き上げられるか。考えてるのはそれだけだった。


「上から物申してんじゃねぇぞ!!!!」


 重力に逆らい、放ったのはオーバーヘッドキックだった。ぐるりと一回転し、遠心力が乗った右足蹴りが、ジェノαの鎧兜を叩きつけるようにクリーンヒットする。奴は真っ逆さまに落ちていき、あっという間に上下が入れ替わる。ここで満足する僕じゃない。これで決着がつかないのはお互い分かってる。


「――――」


 ジェノαは突如として姿を消した。恐らく、『空間』の能力を使い、瞬間的な移動を果たした。次もまた大技を仕掛けるための準備をするか、それとも、奇襲をかけてくるのか。あらゆる選択肢が脳内を巡るが、僕は考えるのをやめた。戦闘は頭で考えてやるもんじゃない。それだと一手遅れる。反応が鈍る。だからこそ僕は、腹の底で考える。直感に従う。ノータイムでリスクある行動を即決する。


「…………」


 僕は可能な限り、センスを薄く引き伸ばした。感覚神経の一部のように扱い、必要最低限の消費量で、索敵できる形状を目指した。アメーバ状ってのは効率が悪いことに気付いた。アレはセンス量が有り余ってるやつがすることだ。量に自信がない僕は質にこだわるしかなかった。だから自然と形になった。僕の最適解が見つかった。神経回路状だ。アメーバ状に近いが、小さなアメーバを無数に繋いで、延長させたようなイメージだ。これなら消費するセンスは半分以下で済む。更に言えば、当たり判定を極限まで削ってるため、索敵できる範囲は倍以上のものになる。


 さぁ、かくれんぼの始まりだ。すぐに見つけてやるぜ。ジェノα!

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