表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/148

第142話 兆し

挿絵(By みてみん)





「ちょっと待て……本当にそんなことがこれから起こるのか?」


 わたくしが未来で体験してきた出来事を首都北部屋上で話すと、ジャコモは目を見開き、確認を取っていた。この反応も無理はない。常軌を逸しているというか、絵空事の極みというか、ラウラに不利益が講じる結果になるのは変わりないのだが、耳を疑ってもおかしくない過程と方法なのは間違いなかった。


「ええ。総長対教皇が皮切りとなり、我々は否応なく因果の渦に巻き込まれる」


 驚いた本質となったキーワードをあらためて告げ、強調する。恐らく、そのイベント自体はわたくしが今からどんな行動を取ろうとも避けようがない。時間的に間に合わない。介入できるとすれば、その後だった。


「情報を整理させてくれ。決定打となるのは俺だったんだよな」


「はい」


「俺に相談したことによって別の未来が訪れる可能性が高いんだよな」


「まさに」


「それを予想するのは困難なわけか?」


「厳しいでしょうね。ここからはアドリブが物を言います」


「つまり、ラウラの生死に関わるのは……俺だけじゃないのか?」


「わたくし目線の場合、貴方がボトルネックでした。それが解消されたからといって、未来が都合のいい方に転がる保証はなく、わたくしはそれを見届けることはできません。多く見積もっても残り一時間程度しかご一緒できないでしょう」


「24時を跨げば、魔法が解ける。まるでシンデレラだな」


「にしては年を重ねすぎてしまいましたがね」


「それより……どうする? 何か妙案はあるか?」


 情報整理は終わり、一歩踏み込んだ議論に発展する。こうしている間にも状況は悪化の一途を辿り、予測不能の無限の未来が広がっている。一秒一秒が惜しい。全てに干渉することはできず、選択肢は一つに絞らなければならない。


大財務長グランドトレジャラーと接触しましょう。意図は追々話します」


 ◇◇◇


 総長と教皇の謁見を実現する。それであたいたちの足並みは揃った。後はいかに実現させるか。残す議論はそれだけとなっていた。


「猫になった状態じゃ、意思疎通に限界がある。大前提として、ラウラの猫化を解くのは必須だね。解放条件を教えてくれるかい」


 首都西側と思わしき道路上で、あたいは情報をまとめつつ、話を転がした。この関係が一時的なものか、恒久的なものになるかは分からないが、『宗教戦争を避ける』という共通した目的が、あたいたちの団結力を高めているのが分かる。未来のことなんて想像もつかないが、全てが上手くいった暁には積もりに積もった長年のわだかまりが一気に雪解けする気がしていた。


「私が手で触れ、解放を念じることが唯一にして絶対の条件。遠隔操作で一発というわけにはいきませんねぇ」


「ありふれた条件だが、至極真っ当だね。見えない状態での解放は一見便利に思えるが、見えない分、不測の事態を招きやすい。高機能な追加効果を能力に付与すれば、燃費も悪くなるし、いらない機能を極力省くのは理に適ってる」


「お褒め頂き光栄の極み。とはいえ、差し迫る事情を考えれば、不便な状況になっているのもこれまた事実。移動は制限され、教皇と接触を図るのは難しいときた」


 どれだけ議論を深めても、行き着くところは同じ。首都が浮遊し、移動が困難になっている状態がネックとなっている。自ずと視線が注がれるのは、大財務長の隣にいる女修道騎士だった。名前は語られなかったが、自ずと明かされた。


「妙案があれば、お聞かせ願えますかな。……ルミナ・グレーゼ」


 その言葉を受けた本人はなぜか、目を真ん丸とさせている。特段おかしなところはなかったが、自分に話を振られるとは思ってなかったんだろうか。興味のない授業で急に当てられたようにも見えたが、今までのやり取りを聞いている感じ、議論に少なからず興味はあった様子。……こいつは、何か裏がありそうだね。深読みするだけ無駄かもしれないが、頭の片隅には入れておいてもいいかもしれないね。


「私は…………」


 思案を巡らせた上で、女修道騎士ルミナは重い口を開こうとする。あたいたちの方向性を定めた成果があったことでそれなりに期待していたが、その言葉が続くことはなかった。続く必要がなかったと言い換えてもいいかもしれない。


「おいおい……こいつは只事じゃないね……」


「いやはやこれは、嬉しい誤算かもしれませんよぉ」


 地面が揺れ、景色が移り変わる。浮遊した島々が動き出す。あたいたちにとって都合がいいか悪いかはさておいて、起きた事実に変わりはない。


「首都の復興が始まった……」


 ◇◇◇


「確認だ。総長を殺せば、本当に首都の浮遊問題は解決するんだな?」


 潜考図書室と呼ばれる場所で、俺は確認を取った。正体不明の老けた赤ん坊に食われた証拠、『騎士団創世記』の一ページ。その内容を唯一知っているアーケインに尋ねた。事実なら腹をくくる必要がある。虚実なら腹を殴る必要がある。どちらに転んでもいいが、無条件に信じるわけにはいかない。門外不出の図書室の資料という確かな情報から裏を取れないとしても、この問答には意味があった。


「ああ。間違いなく、先ほどの資料にそう記されていたね。信じるか信じないかは君の自由だが、確かめる術はあるまい?」


 アーケインの瞳や表情に揺らぎはなく、平然と答える。表面的な部分では嘘をついているようには見えない。どうでもいい会話だったら信用してやってもいいが、内容が内容だ。用心するに越したことはない。


「そうとは限らないだろ。宮殿護衛長パレスガードコマンダーともあろう御方なら、潜考図書室の本は全て目を通してるんじゃないか?」


 視線を送ったのは、レイピアを持った甲冑を脇で待機させる主人。両腕を組んで、険しい表情を作り、起きた状況を重く受け止めていた。何を考えているかは知らんが、誰よりもここに精通している。内容を覚えている可能性は十分あった。わざわざ『潜考』とつけているあたり、深く覚えられるギミックがあるとも考えられる。もしそうなら、万事解決だ。トリックスター的な匂いを醸し出しているアーケインの言葉に振り回されなくて済む。


「むむむ。期待に応えてやりたいのは山々だが、生憎、管理を任されているだけで、全てに目を通したわけではない。本業はあくまで宮殿の護衛であって、司書ではないからな。興味関心がある書物なら答えてやれんこともないが、生憎、歴史ものには疎くてな。見る必要がなかったというべきか、とにかく『騎士団創世記』の具体的な内容は知らぬ存ぜぬよ」


「知らぬはいらんだろ。紛らわしい。……というか、ちょっと待て。今の発言を許していいのか。総長を殺せば止まるとか言ってんだぞ。私は騎士団に仇名すテロリストだと宣言したようなもんだ。取り締まるべきだろ」


 適当にニュアンスだけで話した言葉を訂正すると、引っかかる。おかしな状況に気付き、俺はそれを話題に上げた。


「解決するかもしれない条件を言っただけで、実行に移すと宣言したわけではない。仮に今のをSNSで発信したとして罪に問われると思うか? 噂や都市伝説レベルで止まり、それを鵜呑みにして実行に移す者が罪に問われるべきだと思うが」


 返ってきたのは、ぐうの音も出ない正論だった。もはやここまでくれば、口裏を合わせてるんじゃないかと思えてくる。ここまで案内してくれたのは有難いが、ここらで線引きをハッキリさせておいた方がよさそうだな。


「それはそうだが、宮殿護衛長として見過ごしていいのか? 総長に危険が及ぶかもしれないんだぞ」


「かもしれないでは動けない。確固たる証拠がなければな。そもそも、我輩の役割は宮殿内の護衛に限定され、外のことは預かり知らぬのよ」

 

 返ってきた発言には、一応の筋は通っていた。肩書き通りにしか動けず、その領分に合わせた意思能力を開発していたなら外に干渉する意味がない。餅は餅屋と言うべきか、内と外で完全に活動領域を切り分けている。それが強さの秘訣なのかもしれないが、どうも引っかかる。被害妄想じゃなければ、アーケインと宮殿護衛長が裏で手を組んで、俺をハメようとしている気がした。


「じゃあ仮に、俺が総長を殺すと言ったらどうなる」


「言うだけは自由。行動に移そうとすれば、我輩の甲冑が止める」


 問いに対し、宮殿護衛長は真顔で答え、空気が一段重くなったように感じた。傍に立っている甲冑が心なしか威圧感を増した気がする。センスを発することはなかったが、ホラー映画特有のおどろおどろしい雰囲気を放っていた。


「それも宮殿内限定か? 外でも発動するのか?」


「無論、宮殿内限定よ。後はそちらで解釈するといい」


 説明の余白を残し、宮殿護衛長は能力の底を見せない。恐らく、勘違いじゃなければ、騎士団への害意に反応するはず。例えば、総長を殺すと言ったり考えたりするのはいいが、殺すために行動を移そうとした時点で甲冑が敵に回る。騎士団に仇名す者への最強の後出しじゃんけんだな。裏切り者が宮殿内に潜り込んだとしても、余裕で対応できる。首都を対象にした能力だと広すぎて現実的じゃないが、宮殿内に限定するならギリギリ現実味がある。……俺は果たしてどうなる。半端な気持ちで騎士団に入り、リリちゃんを殺され、首都浮遊問題を抜きにして、総長を逆恨みしつつある俺は、一体どういう判定になる。


『――――』


 聞こえてきたのは、カタカタカタという金属音だった。甲冑が小刻みに揺れ、心霊現象のような行動を起こしている。一瞬、地震かとも思ったが、違う。俺はラインを超えた。アーケインが悪い言葉を話題に上げ、俺は悪い行動を想起し、それが引き寄せられた。病は気からと言うが、裏を返せば、病気を意識したら病気になりやすい理屈と似てる。これは演出だ。これは誘導だ。これは奴の計画だ。


「くっふふっ。はははははっ。あーははははははははははっっ!!!」


 俺を高笑う扇動者の姿が嫌でも目に入る。癪に障る声が嫌でも耳に入ってくる。正体を宣言したようなもんだ。狙いを明かしたようなもんだ。奴に罪はない。口にしただけで実行に移す気などサラサラない。最初から俺を……!!!


「実に滑稽で実に愉快だ。ここまで人を笑い者にできたのは久方振りだよ」


「宮殿護衛の観点に則り、清掃係を敵性存在と認識した。悪く思うてくれるなよ」


 立ちはだかるのは、アーケインと宮殿護衛長と甲冑。


 最悪の対戦カードが実現した時、首都は大きく揺れ動いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ