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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第125話 地下にあるもの

挿絵(By みてみん)





 ジェノαと合流し、向かった先はマルタ騎士団管轄の貯蔵庫だった。大聖堂のちょうど裏手にあり、非常時に備えた水や食糧が大量に保存されている場所だ。古臭いというか、年季が入っているというか、外観と内観はお馴染みの石灰岩と思わしき石造りの構造で、木造りの棚や樽が所狭しと並んでいる。一見、地下に通じるような入口はなかったわけだが、とにかくここは陰気臭い。湿気があると言えばいいんだろうか。外と比べて一段と気温が下がっているような気がしていた。


「つまみ食いしちゃ駄目だからね。……今はとにかくついてきて」


 ジェノαは僕にしか伝わらない白き神ジョークを飛ばしながら先導し、貯蔵庫の奥へ奥へと進んでいく。室内はそれなりに広く、倉庫型の某小売店を彷彿とさせる。どこに出入口があるにせよ、まだしばらくかかりそうだ。猫の歩幅に合わせてくれているからか進行も遅く、手持ち無沙汰もあり、僕は雑談に興じることにした。


『なぁ、ちょっと聞きたいんだが、マルタ共和国とマルタ騎士団の関係性ってどうなってんだ?』


『どうって、具体的に何が気になるの?』


『一般論だと、共和制の国のトップは大統領だろ? 同じマルタって名前がついてはいるが、騎士団は国家から独立した存在のはずだ。その総長グランドマスターを表のトップに据えられるわけもねぇとは思うんだが、首都バレッタで生前葬を堂々とやれるだけの支配権があるようにも感じる。そこがどうも気になってな』


『活動と支配権は別口よ。宗教活動や慈善活動は認められているけど、特定の市民に対して支配権や法的拘束力は持たない』


『にしては総長の影響力がデカすぎねぇか? 線引きはどこだ?』


『騎士団の特定施設かどうかでしょうね。宮殿、大聖堂、貯蔵庫、聖エルモ砦などの施設はマルタ共和国内にあるけど、国家間の合意のもとで騎士団の管轄になった。いわば、大使館のようなもの。施設内に限り、内部自治が認められているのよ』


『内部自治か……曖昧だな。施設内なら限定的な支配権があるって言った方が分かりやすいとは思うんだが、違うのか?』


『領土を持たないマルタ騎士団は、国家に承認されて初めて成立する。あくまで受入国との合意に依存するから、支配権はお邪魔している国家側にある。例えば、何らかの事件が起きた場合、合意済みの施設内なら警察の侵入を拒む権利はあるけど、施設外なら問答無用で捕まり、国内法が適用される。騎士団の権限なんて本当に限定的なものよ。あくまで土地を間借りさせていただいてる立場だから、強くは出られない。借家に住んでいたら、家主に逆らえないでしょ。それと同じ』


『へぇ……特定施設の不可侵が合意上の限界ってわけか。じゃあ、首都がバラバラになった件はどうなる? 施設外だから騎士団は知らんぷりか?』


『総長がそんなに薄情な人に見える? 受けた恩は必ず返すタイプよ。そもそも、この旅路の目的がなんなのかお忘れ?』


『確かに、な……』


 僕の隣に並んで歩く灰色猫……アウロラとのやり取りの末、頭に浮かんだのは水中都市ラグーザを首都に吐き出した一件。僕の無茶振りに、ジェノαが応えた光景だ。その根底には、人を助けたいという善良な思想がある。被害予想地域には騎士団の管轄外が大いに含まれていたが、全員を救った。本来、自分と騎士団のことだけを考えれば、別のアプローチもあったはずだ。そうならなかったのは、ジェノαの善意の賜物というか、損得勘定を抜きにした義理と人情に厚い性格のおかげともいうべきか。ともかく、総長という肩書きを抜きにしても、悪い奴じゃないのは確かだった。騎士団に染まって、腹黒い部分も抱えてるのかもしれねぇが、実体験ベースだと白だ。奴隷に関しては聞きたいことが山ほどあるが、人格面は信用していいだろう。共和国と騎士団との関係も理解できたし、疑問はおおよそ消化できた。ただ、それらを踏まえた上でも気になることがないわけでもない。


『いや、ちょっと待て。この国に警察はいるんだよな?』

 

『当然でしょ。それがなに?』


『騎士団の施設外がこんなヘンテコな状態なのに、なんでサツが出張らない』


 行き当たるのは、共和国側の行政の麻痺。人類史を見ても異例の大事件が起きたのに、人が見当たらない違和感だった。思うところがあったのか、アウロラは口を閉ざし、物思いに耽っている。即答できないのを見る限り、やっぱ変だよな。まぁ、今んところ他に証拠があるわけでもないんだが……。


「ご歓談のところ悪いけど、ついたよ。ここからは気を引き締めてね」


 到着したのは、壁沿いにある木造りの棚。特徴的な木箱を移動させ、壁に押し込むとカチリと音が鳴り、ありがちな隠し扉が露わになる。棚と壁が連動して開くタイプだ。引き戸のように機能し、棚を左にスライドさせ、入口が見えた。下り階段に直に繋がり、先は暗くて見えない。いかにも……って場所だった。


『これについての詳細は?』


『知らない。知ってたらさっき話してるわ』


 どうやら、学のあるアウロラでも覚えのない場所らしい。恐らく、戦死者の血が石灰岩に染み込んで亡霊がどうやら……ってレベルしか聞かされてねぇんだろうな。アウロラは騎士団の関係者ではあるが、奴隷という身分を考えれば立場は低い。ブラックスワンもそうだが、役職に応じて開示される情報が違うんだろう。下っ端は下っ端レベルの情報、上澄みは上澄みレベルの情報ってな。僕の親父が殺された件も同じだ。組織の下から二番目……銀級程度の役職じゃあ、ちっぽけな情報しか仕入れることはできなかった。恐らく、これから向かう先は最重要機密の場所。マルタ騎士団でもごく一部しか知らない施設だろう。


『『…………』』


 雑談をする話題も余裕もなくなり、僕たちは歩みを進める。首都のどこからどこまでが浮遊してるんだ? って疑問もあったが、聞いたところで答えが返ってくるはずもない。都市をバラバラにした黒幕はこの場にいねぇはずだからな。結局のところ、この目で確かめるのが一番手っ取り早い。


「そうだ。君たちは知らないんだったよね」


 歩みを止めた白銀の鎧ことジェノαは振り返り、僕たちに視線を落とす。気付けば階段は下り終え、目の前には中央に切れ目が入った石灰岩の壁があった。取っ手に近しい位置には、生体認証のような両手が置ける程度の窪みが見える。見ただけでは何も分からん。間違って一般人が迷い込んでも、ただの行き止まりかと意気消沈して終わるレベルだろう。ただ、ジェノαが言うには何かある。僕たちが深く掘り下げることもなく、彼は石灰岩の窪みに両手を当てると、壁は左右に開いた。暗くてなんも見えねぇが、確かに感じる。肌が身震いするほどの強者の気配。


「ここは聖地。歴代総長の意思が封印される『開かずの間』だよ」

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