第123話 終幕
中庭に響き渡ったのは轟音。私とソラルによって生み出された意思弾が炸裂し、華麗なフィナーレを迎えた。劇場版ならラストの見せ場でも遜色ない光景。仲間を信じて掴んだ勝利だと余韻に浸ってもいい。だけど、私は冷静だった。
「――これ、借りるね」
私は一言断りを入れて、女騎士から西洋剣を拝借する。付与された術式は恐らく『再生阻害』。この剣で真っ二つにされた甲虫男は戻らないんじゃなく、戻れない。硬い外骨格に通用した切れ味よりも、私は能力に注目した。聞けば確実なんだろうけど、その時間が勿体なかった。
「…………」
見通しの悪い土煙に包まれた空間に、私は足を踏み入れる。一歩ずつ着実に進み、毅然とした表情を作り、甲虫男がいると思わしき方向に導かれる。
『………素人が剣を振るうか』
『………半端な技量では火傷するぞ』
そこには、焼け爛れながらも再生を始める一対の甲虫男がいた。左半身と右半身の原型を留め、立ち上がり、私を温かく出迎える。熱い展開はもうやった。劇場版のような派手な展開はいらない。地味にしめやかに個人的な因縁に決着をつける。
「北辰流――【春雨】」
返事の代わりに放つのは、無数の刺突。
型にハマった無駄のない動きが繰り出される。
『――――っっ!!』
『――――っっ!!』
反論の余地もなく、左半身と右半身は直撃。
至る所から出血し、その傷口が塞がる様子はない。
これでは決着がつかない。そんなのは予め分かっていた。
「――【村雨】」
この型は連撃を前提に作られている。
先ほどよりも勢いを増し、刺突を繰り返す。
甲虫男の表情に余裕がなくなっていくのが見えた。
『ノウマク・サンマンダ……』
『バザラダ――』
彼は後方に距離を取り、短い詠唱を開始する。
完遂すれば、今の私にも通じるカウンターとなるはず。
「――【速鳥】」
思い通りにさせるわけもなく、私は踏み込み、剣を縦に振るう。
『…………っっっ』
詠唱中の右半身は竹を割ったように真っ二つとなっている。
これでもまだ甘い。技は阻止できたけど、三体に分裂しただけだ。
「――【朝霧】」
すかさず振るうのは、無数の斬撃だった。
刃が霧状に見えるほど高速化し、敵を斬り刻む。
右半身だったものに変わり、辺りには肉片が飛び散る。
『待て。俺ならお前の願望を――』
左半身は俗っぽい台詞を並べ、隙を伺っている。
返答すれば、何かしらの策を講じるつもりなんだろう。
「――【有明】」
私は斬撃に意思を乗せ、飛ばし、爆発させる。
交渉の余地はない。和解で済むフェイズは終わっていた。
『婆栖鳥!!!!』
ようやくエンジンがかかったのか、右半身は鳶の如き鳥を放つ。
本体の状態に依存しているのか、姿形は半分に欠け、勢いは感じない。
「――【吹雪】」
私はそれを突き穿つ。焼き鳥のように串刺しにして、右半身も貫く。
相手のセンスを媒介に体内の熱と温度を奪って、極低温状態に陥らせる。
『――――ちぃ!!』
突き刺された刀身を引き抜こうと触れた手は凍り付く。
症状は悪化の一途をたどり、体表面に薄い氷が広がっている。
そこで死を悟ったのか、甲虫男の動きは止まり、抵抗を諦めていた。
『これで、終わりと思うなよ……。地獄でまた、逢おうぞ……』
俗っぽい台詞を並べると頭部にまで氷が及ぶ。
ここで止めることもできたけど、要望には応えたい。
封印という管理体制に依存した状態よりも地獄がお似合い。
「――【霰】」
私は突き刺さった刀身の先に意思を込め、放つ。
瞬時に身体は爆発四散して、霰のように飛び交った。
次第に霧が晴れるように土煙が消え、辺りが見えてくる。
そばにいたのは、一人。白い調理服を着た男性コックがいた。
終幕を飾るにふさわしい配役。何を言うべきかは自然と浮かんだ。
「――西洋風冷凍微塵チキンの出来上がり。――感想求む」
『これでお前は終わりです』




