表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/156

第110話 質疑応答

挿絵(By みてみん)





 大病院長グランドホスピタラーとの事前協議は終わった。相手に5W1Hの質問に答えさせ、発動条件を満たし、敵の意思能力を乗っ取り、兵器長ウェポンマスターが彼を兵器化した。この一連の流れは当初の予定とは大きく逸脱したもの。前もって聞かされていたのは、『兵器長の存在』と『5W1Hの質問には気をつけろ』という内容までだった。


 自戒を込めたアドバイスだったのだろう。なぜならミイラ女を含めた彼女たちは、一人も余すことなく『5W1H』に答え、『兵器長』に『兵器化』された。恐らく、私に弁護を任せたのは、同じ轍を踏みたくなかったのが理由のはず。


「あのさ……。交渉相手を兵器にして、どう収拾つけるわけ?」


 当然、こうなる。クライアントに不利益が生じた以上、説明責任が発生する。自分都合の思いつきで好き勝手やった罰とも言える。


「――聞いてなかった? ――次の相手は大政務長グランドチャンセラー。――集団訴訟は終わってない」


 振り返った私は、手にした戦利品……黒いシリンジガンをこれ見よがしにみせつけながら、平然と答える。腰を低くして、相手の顔色を伺いながら、慎重に言葉を選ぶことも可能だったけど、どちらにしても結果は変わらない。


「そんなの頼んでない! 事前に話した内容と全然違うじゃん!!」


 ミイラ女は黒いローブ服の襟元を掴み、声を荒げる。周りの目線も冷たく、彼女がこの場の全員の意見を代弁してると言っても過言じゃなかった。怒りと不満が破裂寸前。それ相応の理由がなければ納得しないだろう。


「――でも勝ったよ。――あなたたちができなかったことを私はやった」


 私の一言に、場がシンと静まり返ったのが分かる。視線の先には、もう一つの戦利品である六つ腕の人形……兵器長ウェポンマスターが見えていた。能力の条件を逆手に取った場合、今までの経験上、所有権は実行者の私にあると考えていい。


「そうだけど、別に望んでなかった。私たちは自由が欲しかった!」


「――いや、主語でかすぎ。――全員があなたと同じ意見とは限らない」


 私は冷たい視線を送るクライアントの感情の裏を読む。彼女の言ってることは正しいように見えて、自分と他人を一緒くたにしようとする傲慢さがある。全員の意見を一人一人聞いた上での発言なら分かるけど、今のは決めつけだ。


令嬢レディ……不躾を承知で口を挟ませてもらうが、悪魔弁護士の言い分にも一理ある。実際、私たちが成し遂げられなかったことを彼女はやってのけた。胸をすくような気持ちがないわけではない」


 気まずそうな顔をしながらも声上げたのは、騎士風の青髪短髪の女性だった。兜のない銀色の鎧に身を包み、左腰には西洋風の剣を帯びている。装備を見たところ、中世出身の女騎士に見える。当時の階級は不明だけど、兵器長に兵器化されて今の時代まで生き延びることになったのは間違いなさそうだった。


「あっそ。じゃあ、今のと同じ意見の人がいるなら、挙手して」


 面白くなかったのか、ツンツンした態度でミイラ女は同意を求める。大半の人が挙手しなければ、女騎士の発言が少数派となり、彼女が言っていたことが多数派と見なされる。そうなれば、ミイラ女の溜飲が下がることになるだろう。

 

「「「「「「…………」」」」」」

 

 しかし、この場にいた者の手がチラホラと上がり出す。ザッと数えても数百名はいて、この場にいる兵器化被害者の半数は超えている計算。民主主義の観点から見れば、私の勝ち。ミイラ女の発言は過半数の支持を得られなかったことになる。


「――ほらね。――言い争うつもりはないけど、これが現実」


「だから今後も、私の指示に従えって?」


「――そこまでは言ってない。――ただ私は独りでも続けるつもりだよ」


 支持を得られるかどうかは置いといて、ひとまず自分の意見を伝える。彼女たちがどういう決断をするにせよ、何らかの道を示す必要があり、正しいか間違っているかは多数決なりなんなりで決めてもらうしかなかった。


「人質について、何か考えはある?」


「――私なら無条件で解放する。――彼らに罪はない」


「もし、交渉を継続するとして、人選は?」


「――あなたと女騎士は欲しいかな。――他は砦で待機」


「理由は?」


「――大所帯だと管理できない。――首都は今、バグってるから余計に」


「大政務長と交渉するとして、勝算は?」


「――あるに決まってるじゃん。――秘密兵器が手に入ったんだよ」


 私は兵器長を見つめながら、手にしたシリンジガンを強調する。


 相手は馬鹿じゃない。多くを語らずとも、内容は理解できるはずだ。


「終着点は大政務長との交渉成功として、直近の目標は?」


「――砦の攻略。――砦南東にいる巨大蛾……チョモスの討伐が必須かな」


「そいつが首都をおかしくした諸悪の根源?」


「――可能性があるってだけ。――少なくとも、アレを倒さないと砦に蔓延る虫たちは消えないはず」


「怪我してる彼はどうするの?」


「――砦の医療班に任せて放置。――あなたの包帯に劇的治癒力があるなら別」


 ミイラ女と質疑応答を重ね、私は一つ一つ丁寧に対応する。


 どうせこの先は修羅場。時間がある内に疑問は解消した方がいい。


「私の包帯は傷や病が悪化する速度に比例して、自然治癒力が上がる仕様。ようは、軽傷であるほど治りが遅いし、重傷であるほど治りが早い。彼の病状にもよるんだろうけど、砦南東に着く頃には完治できるんじゃないかな。……もちろん、私の発言と私の能力を信用してくれる前提の話ではあるけど」


 ミイラ女は自らの能力を惜しみなく明かす。当然、嘘の可能性もあるし、砦の医療班に任せた方が確実なのは確か。色々と考えを巡らせるべき状況なんだけど、私の気持ちや判断なんかよりも重要なことがあった。


「――そっちの結論次第かな。――私の船に乗るの? 乗らないの? どっち?」


「泥船だろうと最後まで付き合うよ。あなたとは浅からぬ御縁がありそうだしね」


 彼女との再契約は成立し、その他大勢も同意し、パーティは再編成。


 黒い包帯でグルグル巻きにしたソラルを担架に乗せ、砦攻略は再開した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ