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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ

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第106話 交渉

挿絵(By みてみん)





 人格形成は、幼少期にどんな体験をしたかで大半が決まる。後天的に変わることもあるだろうけど、性格の根幹部分はそこで確立されると言っても過言じゃない。……ただ、私たちは生まれながらにして『異常』だ。呪われし子供達計画で作られたベビーは他人の遺伝子と記憶を参照し、出生時点で発育と人格形成が完了している。だから疑いもしなかった。与えられた情報が正しいと思い込まされていた。聖女マルタの記憶は原点の一つではあるけど、私を構成する要素はそれだけじゃない。


「――身体の原点オリジン?」


 記憶と身体は別物だ。マルタやアルカナの妹の記憶を参照していたとしても、ベースとなる遺伝子は別にあったんだ。よく考えれば、母胎と思わしきマルタと私たちの容姿は全く似ていない。人工子宮というテクノロジーが存在している時点で、母胎はいくらでも隠蔽できることに気付くべきだった。


「うーん……それも何かの引用?」


 ミイラ女は顎下辺りに人差し指を当て、小首を傾げている。


 言ったところで理解されない。この話し合いには直接関係がない。


「――20の文字列と聞いて真っ先に浮かぶのはアミノ酸配列コードでしょ、までがセットね。――X-ファイルって言っても分かんないか。――本題に入ろう」


 私は嘘を重ねながら緋色の意思を纏い、臨戦態勢。


 物々しい雰囲気を醸し出しつつ、彼女の出方を伺った。 


「ありゃ? 地雷でも踏んだ? ま、そっちがその気ならそれでもいいか」


 ミイラ女も同じく緋色の意思を纏い、敵対する姿勢を見せた。


 これで視覚的な情報は揃った。面倒なプロセスは省略したっていい。


「――冗談。――戦えるかどうか確認したかっただけ」


 私は両手を上げ、降参の意を示した。


「何様のつもり? こっちは戦ってもいいんだよ?」


 一方の彼女はセンスを昂ぶらせ、敵意を向ける。


 挑発じみた行動が、少しばかり気に障ったみたいだ。


 話を先に進ませるには、不満を解消しなければならない。


「――止められるって言ったよね。――アレは嘘じゃないよ」


 仕方なしに私は悪意を纏い、邪眼を見せつける。


 能力は発動しなかった。使えるということだけを開示する。


「ま、答えてくれたなら許してあげますか。……それで、彼はどうする?」


 ミイラ女は意思を鎮めて、視線を落とす。


 その先には、担架に乗せられているソラルの姿。


 事の発端は彼女に彼を治させるかどうかが議題だった。


「――何か治療の見返りを要求して。――内容によっては信用する」


「じゃあ、邪眼の能力開示で」


「――却下。――他には?」


「だったら、あなたの意思能力」


「――対象や物理現象に介入する能力。――言っとくけど、先払いだから」


「クーリングオフは?」


「――受け付けておりません」


「オーライ、交渉成立。この人の安否は私にお任せあれ」


 簡易的な契約を終え、ミイラ女は黒い包帯を伸ばす。


 恐らく、見てくれから考えれば治療系の意思能力のはず。


 多少の懸念はあるけど、私たちの原点だとすれば信用できる。


「――やっぱり、ちょっと待って」


 と思っていたけど、私は地を蹴り、包帯の介入を阻んだ。


 間一髪か、ただの杞憂か分からないけど、ソラルには触れてない。


「ん? まだ不満でもあるの?」


「――彼は治さなくていい。――その代わり、答えて」


「何を?」


「――あなたはどこから来たの?」


「へぇ、そんなしょうもないことで人の善意を無碍にするんだ」


「――いいから答えを言って」


 包帯を握る手に力が入り、緊張感が増していく。


 自分でやったことながら、やや後悔が勝ってしまう。


 彼女が黒である確信はないけど、明確な違和感はあった。


 ――ミイラ女は囚人服を着ていない。


 恐らく、修道士でも囚人でもない第三者的存在。


 ソラルに怨みがあろうがなかろうが、危険と判断した。

 

 その予感が当たっているかどうかは、彼女の口から語られる。


「この先の兵器庫から。厳密に言えば、紀元前のエジプトからかな」

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