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教皇外交録/聖十字と悪魔の盟約  作者: 木山碧人
第十章 マルタ
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第10話 潜入開始

挿絵(By みてみん)





 聖エルモ砦内、兵器庫。


 石造りの手広い空間に並ぶのは、数々の剣、杖、槍、鎧、盾など。いわゆる、古典的な装備が集まり、木製のスタンドやラックに飾られている。平時においては立ち寄る必要のない場所であり、対囚人を想定するなら過剰な装備と言える。それは例え、3万の大軍に包囲されても、10分の1以下の軍で勝ち切るほどのものだ。


 脱獄宣言をされた手前、警戒せざるを得ないが、総動員で完全武装するほどの緊急事態でもない。敵の戦力は数名から多くても数十名程度だろう。哨戒にあたる者は通常装備で事足りる。……とはいえ、小生個人としては話が別だ。


「…………」


 厳重に保管された宝箱を開錠し、手に取ったのは黒い包帯。

 

 それを丁寧に両手の拳に巻き、留め具を挟み、戦闘準備は完了。


 意気を新たに動き始めようとすると、展開する結界に異変が生じた。


「光源回路の反応が、消えた……」


 確かに感じたのは、感知機能を司る機能のショート。


 万が一、多重構造結界を突破された場合に備えた、保険。


 するとドタドタと足音が聞こえ、銀髪の若い修道士が現れる。


 息を整え、気分を落ち着かせると、すぐに訪れた目的を明かした。


大病院長グランドホスピタラー! ご報告したいことが!!」


 ◇◇◇


 ソラルと呼ばれた修道士に案内されたのは、独居房。収容者が一人で生活する牢獄。ようするに、元いた場所に戻ってきたわけだ。思った通りというべきか、ここには『懲罰房』という概念がないらしい。わざと怒りを買うような発言をし、砦の可動域を探ったわけだが、改修工事は進んでいないようだ。恐らく、下手にいじれない理由が存在し、僕の予想は一つに集約される。


「砦の神殿化……。センスが出せないのは、それが原因か……」


 牢屋の中、至った結論を独り言のように呟いた。近くには、案内したソラルを含め、数人の見張りが立っているわけだが、馬鹿正直に答えてくれるわけもない。逃げたいのは山々だが、両手は手錠で拘束され、意思の力は扱えず、ただの一般人に成り下がった僕には起こせるアクションは限られる。


 そこで目を向けたのは石造りの壁。生身の頭を打ちつけて、砦の神秘を崩す……なんて暴挙には出ない。物理的には可能だろうが、鍛錬不足の非力な肉体のままでは壊せない。このまま何もせず、運否天賦に身を任せるのも一興ではあるが、もっと合理的で効率的な方法がすぐ近くに転がっていた。


「聞いてるかい、お隣さん。砦を壊せば力は使えるよ。恐らくね」

 

 ◇◇◇

 

 聖エルモ砦内、出入り口付近。星型要塞の南東部。


 陽動作戦を試み、目標だった3分以内の潜入は完了する。


 順調と言える出だしだったものの、不都合な事態が発生した。


「……ッ!?」


 プチュンという音と共に、目の前は煙に染まる。


 次に焦げ臭い匂いがして、反射的に覆面を取り外す。


 【火】が生じることはないものの、変装用の機能は停止。


 両目と鼻と口元が開いた、何者でもない肌色の覆面があった。


(EMP攻撃? いいえ、これは……)


 変わり果てた便利道具を握りしめ、原因を探る。


 確信じみた答えに近付いたと同時に見えたのは、二人。


「侵入者はっけーん!」


「おいおい……こいつは分からせが必要だな」


 人差し指を向ける黒髪ピンクメッシュの少女と、手の骨を鳴らす金髪ツーブロックの少年。第三階級の赤修道服に袖を通し、両者共に武器は小ぶりのメイス。哨戒の任務にあたっていた二人一組と接触した可能性が濃厚。敵対するのは避けられない状況ながら、頭の中には別の選択肢が浮かんでいた。


「お待ちください。もしや、リリアナ様とルーチオ様ではございませんか」


「「……え?」」


 私の論点ずらしに対し、二人は顔を見合わせ、硬直する。


 反応からして間違いない。選ぶ言葉を間違えなければ押し通せる。


「ほら、あの……ストリートキングでラウラチームに敗北した……」


 思わぬ偶然に口が滑り、あふれ出たのは余計な一言。


 空気が凍り付き、二人の視線には闘志がみなぎっている。


 ここから入れる保険があるなら入りたい。それぐらいの失態。


「はい、カッチーン。ファンじゃないじゃん、アンチじゃん!」


「こう見えても根に持つタイプでな。……容赦なくボコるぜ!」


 リリアナとルーチオは半ば正体を認め、迫る。


 小ぶりのメイスを振りかぶり、同時に攻め立てた。


「……っ」


 後ろ宙返りをして、今は回避を優先した。


 バキリと音を立て、二人のメイスは地面を抉る。


 追撃を警戒するも、彼らは手を止め、その場で止まる。


「やっちゃった……。国家文化財なんちゃらの破壊……」


「いやいや、この程度なら大丈夫っしょ。さすがに……」


 二人の会話を聞いて、ピンとくるものがあった。さっき気付いたのは、覆面が壊れたのは意思の力を封じる環境だったせい。電子機器だとしても意思に紐づくものは破壊される仕組み。原因は恐らく、聖域のような働きをする星型要塞の力。歴史と伝統が神秘性を生み、何人たりとも特別な力を発揮できない特殊な磁場を発生させた。砦の中に入れば、感知式結界の範囲外になるのも納得。もちろん確定ではないものの、私の予想が正しければ、建物の一部が欠けただけでも――。


「…………」


 不意に身体から溢れ出るのは、青のセンス。


 論より証拠。それが身をもって体験できる形で生じた。 


「まっずーい……けど、こうなったものは仕方がない、よね?」


「俺たち流のやり方で裁きを下す。証人がいなけりゃ、責任なしだ!」


 しかし、与えられた条件は相手も同じ。


 二人は異なるセンスを纏い、口封じに奔走した。

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