第10話「救出の夜、家族の誓い」
夜の函館は、冷たい潮風が吹き抜けていた。
現場を包囲したパトカーの赤色灯が、まるで戦場の松明のように煌めく。
倉庫の中では、遼真が縛られたまま座り込んでいた。
犯人たちは勝ち誇ったように笑い、無線で外の警察に脅迫を続けている。
「俺たちの要求を呑まなきゃ、天城玲子の弟を……どうなるか、分かってんだろうな!」
その声が無線を通じて外に響いた瞬間、包囲する署員たちの士気は一層高まった。
玲子は冷静な面持ちで、しかしその内心では煮えたぎる怒りを抑え込んでいた。
(遼真……。お前は私の弟である前に、一人の命。絶対に無事に取り戻す)
彼女の決断は揺るがない。
◇
「本部長、突入部隊の準備が整いました」
特殊部隊SATのリーダーが報告する。
玲子は北条雅臣に目をやった。
北条は静かに頷き、代わりに指示を下す。
「よし……全隊員、配置につけ。突入は五分後だ。標的は三人、銃器を所持している。だが――人質を最優先しろ!」
「了解!」
署員たちの動きが一斉に鋭さを増す。
倉庫の周囲には狙撃班が配置され、突入班は静かに影のように進んだ。
玲子はその場に立ち尽くす。
決して自ら突入するわけにはいかない。だが、弟の命が掛かっている。
拳を固く握りしめるその姿は、母親であり、姉であり、そして本部長としての決意を宿していた。
◇
その頃、倉庫の中では――。
遼真が不意に顔を上げた。
扉の外から、風を切るような気配が伝わってくる。
(……来たな、姉さん)
彼の心にわずかな安堵が灯った瞬間――。
轟音。
突入と同時に、閃光弾が炸裂した。
光と轟音に怯んだ犯人たちが銃を取り落とす。
「動くな! 警察だ!」
「人質確保!」
黒装束の隊員たちが一気に突入し、犯人を床に押さえつけた。
そして――。
「人質、無事確保! 名前は天城遼真!」
無線越しにその報告が響いた瞬間、玲子の膝から力が抜けそうになった。
それでも彼女は姿勢を崩さず、静かに呟いた。
「……ありがとう」
◇
救出された遼真は、すぐに救護班に引き渡された。
額に汗を滲ませながらも、彼は笑った。
「俺は……無事だ。姉さん……さすがだよ」
玲子は走り寄り、ほんの一瞬だけ彼の肩を抱いた。
「馬鹿……。勝手なことして……。でも……生きていてくれて、本当に良かった」
その光景を少し離れた場所で見ていたのは、優人と三つ子たちだった。
まだ幼い子供たちは「ママだ……!」と小さな声を上げ、母の姿に気づく。
玲子は涙を堪えながら三人を抱きしめ、優人と視線を交わした。
「……ごめんなさい、心配をかけて」
「いいえ。あなたが無事で、それが一番です」
優人は静かに彼女の手を握った。
◇
事件は数時間後、完全に収束した。
函館の夜空には星が瞬き、五稜郭の歴史ある石垣を照らすように月が昇っていた。
北条雅臣は帰還した部下たちをねぎらい、玲子に歩み寄る。
「よくやったな、玲子」
「いえ……皆が命を賭けてくれたからです」
「そうだが――お前の指揮があったからこそだ」
玲子は小さく頷き、そして心の中で誓った。
(家族も部下も、この手で守り抜く。それが私の使命だ)
こうして、北海道の夜に刻まれた家族と警察の物語は、一つの結末を迎えた。
だが――新たな旅路は、まだ始まったばかりだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




