表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/118

第8話「姉の覚悟、弟の願い」



 函館の夜は静かに更けていた。

 赤レンガ倉庫街のホテルの一室では、優人が三つ子を左右に抱き、真ん中にもう一人を寝かせていた。

 赤ん坊たちは小さな寝息を立て、まるで父の胸に守られるようにすやすやと眠っている。


「……本当に、俺にとっての宝物だ」

 優人は微笑み、子供たちの額に一人ずつ口づけた。

「ママは今、仕事を頑張ってる。だからパパが守るからな」

 その声は子守歌のように優しく、やがて部屋全体を静寂が包んだ。


 ◇


 その頃、遼真はホテルのラウンジを出て夜風を吸い込んでいた。

 街灯に照らされた石畳を歩いていると、前方から見覚えのある背中が目に入る。

 スーツ姿、背筋を真っ直ぐに伸ばし、夜道を歩く女性――。


「……姉さん」


 遼真は声をかけた。

 振り向いたのは、まぎれもなく天城玲子。

 昼間の現場と同じ、鋭くも冷静な瞳を湛え、弟を見つめた。


「遼真……どうしてここに?」

「旅行だよ。偶然じゃない。……いや、偶然にしてはできすぎてるな」

 遼真は苦笑しながら、足を止めた。

「初めて見たよ、姉さんの“仕事の顔”。……本当に、かっこよかった」


 玲子は小さく目を伏せ、夜風に髪を揺らした。

「かっこいいだなんて……私はただ、職務を果たしているだけ」

「でも俺は、誇りに思った。……あの姿を見て、姉さんがどれだけ大きなものを背負っているか、やっとわかった気がする」


 ◇


 二人は並んで歩き出す。

 函館の夜景が遠くに輝き、坂道の向こうには海が広がっていた。


「……本当はね、家族には見せたくなかったの」

 玲子の声は、ほんの少し震えていた。

「本部長としての私は、冷たくて、厳しくて……母としても妻としても、あまりに不器用だから」

 遼真は首を振った。

「違うよ。姉さんは不器用なんかじゃない。……姉さんがどんなに強くても、俺にはずっと“優しい姉”だ」


 玲子は一瞬立ち止まり、弟を見つめる。

 その瞳には、警察官としての冷静さと、家族への想いが同時に揺れていた。


「……遼真。優人や子供たちを、頼んだわ」

「もちろん。俺にできることは全部やるよ。でも……姉さんも一人で背負いすぎないで」


 玲子の表情が、ふっと和らいだ。

「……ありがとう」


 ◇


 ホテルの灯りが見えてきた。

 玲子は夜空を一瞥し、静かに言った。

「明日から、この町で大きな動きがある。……でも私は、どんな時も家族を忘れない」

 その言葉は誓いのように、遼真の胸に刻まれた。


 そして弟は、心の奥で強く願った。

――どうか、姉さんの戦いを俺も支えられるように。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ