表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/118

第5話「坂の上での再会」


 翌日、函館の空は快晴だった。

 優人と遼真は三つ子を連れ、ベビーカーを押しながら坂道を登っていた。港の風が頬を撫で、海の匂いと異国情緒あふれる街並みが、旅情をより深めていく。


「ここが“八幡坂”か……」

 遼真は眼下に広がる青い海と並木道を見て、思わず息を呑んだ。

「観光パンフレットで見たまんまだな。まるで映画のワンシーンみたいだ」


 石畳をきしませながらベビーカーを押す優人は、額の汗を拭いながら微笑んだ。

「子供たちも、景色を楽しんでるかな」

 ベビーカーの中で三つ子はそれぞれに声を上げ、無邪気に手を振っている。まるで港町の光景に応えるかのようだった。


 ◇


 彼らが坂の上に辿り着いたその時――。

 通りの向こう、古い洋館の前に数名の道警の署員が控えていた。その中心に立つ女性の姿を、遼真は見逃さなかった。


 黒のスーツに身を包み、涼やかな眼差しで街を見渡すその姿。

 そして風に揺れる長い髪。

 ――間違えようもない。


「……姉さん?」


 遼真の声に優人が振り返る。

 視線の先にいたのは、まさしく天城玲子。

 警視庁本部長としての威厳をそのままに、だがどこか柔らかな眼差しを帯びた姿で、弟と夫と三つ子を見つめていた。


 ◇


 玲子は一瞬、目を疑った。

 ――どうして彼らが、ここに?

 出張で函館入りしていることは、家族にも秘していたはずだった。

 だが目の前に広がる光景は紛れもなく現実であり、胸の奥に温かいものが広がっていった。


「……遼真。優人。そして……私の子供たち」


 声を震わせながら名前を呼ぶ。

 遼真は堪えきれず、駆け寄った。

「姉さん! やっぱり、ここにいたんだ!」

 そのまま勢いよく抱きつく弟の腕を、玲子は強く、そして優しく受け止めた。

「もう……子供みたいね。……でも、会えて嬉しい」


 ◇


 次に優人が歩み寄り、腕に抱いた三つ子を見せる。

「玲子さん……偶然にも、ここで再会できるなんて」

 玲子はその言葉に小さく首を振った。

「偶然、かしら……。でも、この子たちの顔をこんな場所で見られるなんて……」

 彼女はそっと赤ん坊の頬に指を滑らせ、声を詰まらせた。

「……ありがとう。連れてきてくれて」


 三つ子は母の温もりを感じたのか、ぱたぱたと小さな手を動かし、玲子の胸元に伸ばした。

 その仕草に、優人と玲子の瞳が同時に潤む。


 ◇


 だが、その再会を遠巻きに見つめる影があった。

 昨日、五稜郭で姿を見せた北条雅臣――北海道警察・方面本部長だ。

 彼は部下とともに一歩下がり、静かに家族の姿を見つめていた。

「……やはり、彼らが来ていたか」

 その瞳には警察官としての厳しさと、ひとりの人間としての複雑な感情が混ざり合っていた。


 ◇


 しばしの再会の後、玲子は弟と夫に囁いた。

「……今はまだ詳しく話せない。でも、函館で起きている“ある事件”を追っているの。危険に近づくかもしれない。だから……」

 そこまで言ったところで、優人が遮った。

「玲子さん、俺たちも一緒にいる。どんなことがあっても、支えます」

 遼真も力強く頷く。

「そうだよ姉さん。俺は編集者だけど、姉さんの味方だ」


 玲子は一瞬迷ったが、微笑みを浮かべた。

「……本当に、頼もしい家族ね」


 坂の上で再び交わされた抱擁は、過去の戦いの記憶を刻む函館の風景の中で、確かな絆の証となった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ