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第1話「北への誘い」


 ある日の午後、東京。

 遼真は出版社を出ると、真っ直ぐに優人の勤める弁護士事務所へと足を向けた。

 入口で受付に立つ秘書に名を告げる。

「天城遼真と申します。優人さんの母、里帆さんにお繋ぎいただけませんか。“遼真と伝えれば分かります”と」

 秘書は一礼し、すぐに奥へと通した。


 弁護士事務所の応接室。

 そこに待っていたのは、落ち着いた雰囲気を纏う優人の母・里帆と、快活な印象を与える姉・明音だった。

「まぁ、遼真君。久しぶりね」

「突然お邪魔してすみません。実は、お願いがあって参りました」

 遼真は深く頭を下げ、真剣な眼差しを二人に向けた。


「優人さんに……数日の休暇を頂けないでしょうか」

 驚きの空気が一瞬流れたが、里帆はすぐに静かな笑みを浮かべた。

「あなたがそんなことを言うなんて、よほどの理由があるのね」

「はい。優人さんと三つ子を連れて、北海道に旅行へ行こうと思うんです。子育てに追われる中で、少しでも二人に気分転換をしてほしくて」


 明音が腕を組み、ふっと笑った。

「なるほどね。確かに弟も玲子さんも、ゆっくり息をつく時間なんてなかったでしょうから」

 里帆は真剣に頷き、しばし考えたのちに言葉を返した。

「いいわ。優人にはしっかり家庭を支えてもらわなければならないけれど、こういう時に心を休めるのも大事なことよ。……私からも話しておきましょう」

「ありがとうございます!」

 遼真の声は自然と弾んでいた。


 ◇


 その夜。

 天城家の向かいにある玲子と優人の家。

 遼真はノックもせずにリビングに入ると――

 目の前に飛び込んできたのは、ソファで寄り添う二人の姿だった。


 優人が玲子の頬を両手で包み込み、長く甘い口づけを交わしている。

 唇が離れたかと思えば、今度は頬に、互いにキスを繰り返す。

「……もう、優人ったら」

「だって、玲子さんが可愛すぎるから」

 赤く染まった頬を隠そうとする玲子の姿に、遼真は思わず咳払いをした。


「……あー……お邪魔してすみません」

 二人が驚いて振り向く。玲子は慌てて姿勢を正し、優人は気まずそうに頭を掻いた。

「遼真……いつからそこに?」

「まぁ、今のはしっかり見させていただきましたけど」

 わざとらしく目を逸らす弟に、玲子は顔を覆い隠し、優人は必死に笑いを堪えていた。


 しかし遼真はすぐに表情を引き締め、真剣な声で切り出した。

「優人さん……北海道に行きませんか」

「北海道?」

 玲子も思わず振り返る。


「三つ子も一緒に。少しの間だけでも空気を変えて、二人にとって新しい思い出を作りたいんです」

 玲子は息を呑んだ。――北海道。その地名に、心の奥で小さなざわめきが広がる。

 なぜなら、彼女自身が今、警視庁本部長として“北海道出張”に入っていることは、家族にも知らせていなかったからだ。


 誰も知らない運命の一致が、すでに動き出していた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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