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第10話「三つの命、ひとつの未来」


 ある日の早朝。

 玲子は目を覚ました瞬間、下腹部に妙な感覚を覚えた。次の瞬間、温かい水が流れ落ちる。

「……破水?」


 驚きで息を詰めた玲子の声に、すぐ隣の部屋で支度をしていた真理亜が駆けつけた。

「お姉ちゃん!?」

「……破水したみたい。病院に連絡をお願い」

 真理亜は慌てて母・美佐子を呼び、家は一気に緊張に包まれた。


 すぐに病院へ連絡が入り、玲子は優人に支えられながら車で搬送された。

 病院の白い廊下を進む間、彼女は何度も深呼吸をし、必死に落ち着こうとする。


「玲子さん、大丈夫。俺がずっとそばにいる」

「ええ……でも、ちょっと怖いわ」

「怖いのは当然だよ。でも――俺たちの子供に会えるんだ」


 ◇


 入院後、医師は慎重に説明をした。

「破水から24時間以内に自然に陣痛が始まれば、母体も胎児も問題なく自然分娩が可能です。ご安心ください」

 その言葉に家族は胸を撫で下ろした。抗生物質も投与され、玲子はベッドの上で陣痛を待つこととなった。


 やがて、破水から数時間。規則的な痛みが腹を締め付け始める。

「……きた、かも」

 玲子の顔が苦悶に歪み、優人が慌てて手を握った。

「俺の手を握ってて。全部受け止めるから」


 陣痛は刻一刻と強まり、玲子は汗に濡れた額で必死に息を吐く。

 母・美佐子が背を撫で、真理亜が祈るように見守る。

 父・輝政や兄・隆明、初枝も控室で緊張した面持ちを崩せずにいた。


 ◇


 そして、長い時間の末――

「……もう少しですよ! 力を入れて!」

 助産師の声に、玲子は最後の力を振り絞った。


 ――産声が響く。

 一人、また一人。さらにもう一人。


 三つの小さな命が、この世に生を受けた瞬間だった。

 玲子の目から涙が溢れ、優人は嗚咽を漏らしながら妻の手を握りしめた。

「玲子さん……ありがとう……ありがとう……」


 医師が小さな命を母の腕に抱かせる。

 玲子は震える声で名を呼ぶ。

「ようこそ……私たちの子供たち……」


 ◇


 数時間後、病室には家族全員が集まっていた。

 母・美佐子は孫を抱きながら涙を流し、父・輝政は黙って頷き、兄・隆明は「よくやったな」と短く言葉をかけた。

 真理亜は堪えきれず玲子に抱きつき、優依も一緒に「おめでとう」と声を上げた。

 初枝は赤ん坊を見守りながら、しっかりと優人の手を握る。

「玲子お嬢様とお子様を、どうぞ末永く御願いします」

 優人は涙を浮かべながら、力強く頷いた。


 そしてその輪に、優人の母・里帆や姉の明音も加わり、両家がひとつになった。


 ◇


 夜。

 病室のスマートフォンがひっきりなしに震え始める。

 玲子の同期から、部下から、次々に祝福のメールや電話が届いた。


「本部長、おめでとうございます! 本当に嬉しいです!」

「母になった玲子先輩……想像しただけで涙が出ます」

「お身体を大事にしてください。戻られる日を心待ちにしています」


 玲子は目を潤ませながら、一通一通に感謝を伝えた。

「ありがとう……私は幸せ者ね」


 ◇


 深夜。

 眠る三人の赤子の小さな寝息を聞きながら、玲子と優人はベッドの上で互いに寄り添った。

「優人……私たち、本当に親になったのね」

「うん。これから大変だけど……三人一緒なら、どんなことでも乗り越えられる」


 窓の外には、三つの星が寄り添うように輝いていた。

 それはまるで、新しい命たちが未来を照らしているかのようだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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