第8話「ひとつの家族として」
季節は春へと移ろい、玲子の体調もようやく落ち着いてきた。
安定期に入ったその日をきっかけに、天城家と優人の家族は合同で「新しい命のお祝い」を開くこととなった。場所は、天城家が長年贔屓にしてきた老舗料亭。格子戸をくぐれば、畳の香りとともに祝いの席の準備が整っていた。
母・美佐子と父・輝政、兄・隆明、妹・真理亜。
そして家政婦の初枝も付き添いに加わる。
一方、優人の家族からは母・里帆と姉の明音が姿を見せ、両家が一堂に会するのは初めてのことだった。
卓を囲むと、和やかな空気が自然と流れ始めた。
「玲子……よく頑張ったな」
輝政の低くも温かな声に、玲子は照れ笑いを浮かべる。
「お父さん、まだ産んでないのに……」
「いや、すでにお前は母親の顔をしているよ」
美佐子は娘の手を握りながら、優人に視線を向けた。
「優人さん、これからは二人で支え合ってね。子供は家族みんなで守るものだから」
「はい。玲子さんも赤ちゃんも、必ず守ります」
その真っ直ぐな答えに、里帆は胸をなで下ろし、明音は弟を誇らしげに見つめていた。
◇
同じ頃。
遼真は編集部のデスクに身を伏せ、必死にペンを走らせていた。
原稿用紙には「三つの小さな星が夜空に生まれる物語」が描かれ、最後のページには――「みんなが君を待っていた」という言葉を添える予定だった。
「遼真、仕上げはどうだ?」
桐谷編集長が背後から声をかける。
「あと数日で完成します。……この絵本は、姉と生まれてくる子供たちへの僕の手紙なんです」
その言葉に、桐谷は深く頷いた。
「いいものを作れ。家族の物語は、誰にとっても宝物になる」
◇
お祝いの席が終わり、料亭の庭先で。
真理亜と優依は並んで歩き、立ち止まると、互いに目を見つめ合った。
「ねえ、優依。今日、なんだかすごく実感したよ。私たち……もう先輩後輩じゃなくて、本当に“家族”なんだって」
「うん。私もそう思った。だから……」
二人は自然と抱き合った。
吹奏楽部での立場を超えて、姉と弟の伴侶を通じて繋がった親戚同士として。
互いの温もりを確かめながら、心の奥で誓い合う。
「でも、部活は部活。そこではきっちり線を守ろうね」
「そうだね。家族だからって、甘えるのはなしだよ」
二人は笑い、再び強く抱き合った。
夜空に浮かぶ月明かりの下、二人の笑顔は、未来の命を祝福するように輝いていた。
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