第7話「支える手、描かれる未来」
秋の夜風が冷たくなり始めた頃。
玲子はふいに強い吐き気に襲われ、居間のソファに身を沈めていた。妊娠初期特有のつわりだとわかってはいたが、想像以上に体を蝕むその苦しさに、彼女は小さく呻き声を漏らした。
「玲子……!」
駆け寄った優人がすぐに背中をさする。
「ごめんなさい、少し休めば大丈夫だから」
「無理しないで。俺、弁護士事務所なんてどうにでもなる。ずっとここにいるから」
その必死な声に、玲子はかすかに笑みを浮かべた。
「あなたまで倒れたら意味がないわ。……でも、ありがとう」
その様子を見守っていた母・美佐子は、娘の背に毛布を掛けながら小さく吐息を漏らした。
「強い子だと思っていたけれど……こうして弱い姿を見ると、やっぱり母親なのね」
すると初枝が力強く頷き、優人を見据えた。
「ご主人様。お嬢様のことは、どうか……どうか全てを差し置いてもお守りください」
優人はその手をしっかり握り返し、深く頷いた。
◇
同じ頃。
出版社では遼真が机に向かい、真剣な表情でラフ原稿を広げていた。
タイトルはまだ未定。だが、その物語は確かに姉と未来の子供たちのために綴られていた。
編集長・桐谷が後ろから覗き込み、低く笑った。
「なるほどな。“三つの小さな光が夜空に浮かぶ物語”か。……まるで姉上とお子さんのことを描いているみたいだ」
「はい。……でも、ただ子供向けの絵本じゃなくて、姉にも読んでほしいんです。母親として、そして一人の女性として、生きていく勇気を持てるような」
その言葉に、桐谷は目を細めた。
「いい志だ。作家に負けない情熱を持っているじゃないか」
遼真は苦笑しながら、手を止めない。ペン先が走るたび、胸の中で決意が強くなる。
――必ず完成させて、姉さんに渡そう。俺からの、心からの祝福として。
◇
その夜。
玲子はベッドに横たわりながらも、隣に座る優人の手を握りしめていた。
「優人……こんな私でも、母親になれるかしら」
「当たり前だよ。玲子さんなら絶対に大丈夫。俺だって全力で支えるから」
玲子はその言葉に安堵し、目を閉じた。
優人は彼女の額にそっと口づけしながら、心に誓った。
――どんな困難があっても、この人と子供を守り抜く。
外の夜空には、雲の切れ間から三つの星が光っていた。
それはまるで、未来に生まれる三人の命が、すでにこの世界を見守っているかのようだった。
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