第6話「未来への贈り物」
夜の編集部。
机に広げられたゲラの束の横で、遼真は腕を組んで深く考え込んでいた。
――姉さんが三人の子供を育てることになる。俺にできることは何だろう。
ふと目を上げると、編集長の**桐谷浩一**がコーヒー片手に近づいてきた。
「遼真、随分と真剣な顔だな。新人作家の原稿にでも問題があったか?」
「いえ……そうじゃなくて」
遼真は小さく息を吐き、正直に打ち明けた。
「実は……姉が子供を授かりまして。しかも三つ子なんです」
「ほう! そりゃ大ニュースだな」
桐谷は目を丸くし、すぐに破顔した。
「で、お前はどんなお祝いを考えてる?」
「それを考えていて……普通の贈り物じゃなく、もっと意味のあるものを残したいんです」
しばし沈黙の後、遼真は思い切って口にした。
「――子供向けの絵本を作ろうかと」
桐谷は目を細め、じっと見つめた後、にやりと笑った。
「面白いじゃないか。お前らしい発想だな。いいだろう、社の企画に乗せてやる。まずは絵本作家の仕事場を見てくるといい」
「……ありがとうございます!」
◇
数日後。
遼真は人気絵本作家・**長谷川詩音**のアトリエを訪れていた。壁一面に飾られた色彩豊かな原画。机には描きかけのラフ。
長谷川は柔らかな笑みで彼を迎え入れた。
「赤ちゃんへの贈り物に絵本を……素敵な考えですね」
「はい。姉の子供たちが、大きくなっても読めるような……そんな一冊を作りたいんです」
その瞳に宿る真剣さに、長谷川は頷いた。
「ならばまずは、物語に込めたい想いを聞かせてください」
遼真は、愛する姉とその家族への想いを、言葉にして語り始めた。
◇
一方その頃。
玲子は体調を考えて、優人が仕事に出ている間は実家で暮らすこととなっていた。ストーカー事件の記憶もあり、両親や兄、妹の傍にいることで安心できる。
優人は夕食時や休日に天城家を訪れ、家族とともに過ごす形を取っていた。
ある午後、天城家の居間で初めて顔を合わせたのは――母・美佐子と、優人の母・里帆だった。
「初めまして。玲子の母、美佐子と申します」
「私は優人の母、里帆です。……このたびは、うちの息子を玲子さんの伴侶として迎えてくださって、本当にありがとうございます」
二人は静かに笑みを交わし合い、すぐに温かな空気が生まれた。
美佐子はふっと息をつき、遠い目をした。
「玲子はずっと強がりで……母である私にすら頼ろうとしない子でした。でも、優人さんに出会ってからは、随分と柔らかい顔を見せるようになったんです」
里帆はその言葉に深く頷く。
「優人も同じです。弁護士という仕事柄、心を張り詰めてばかりいました。でも、玲子さんと一緒にいる時は……安心している。私にとっても、それが何より嬉しいんです」
そのやり取りを陰から聞いていた初枝は、思わず目頭を押さえていた。――お嬢様は、もう本当に“守られる側”になったのだ、と。
◇
その少し後。
別室では、兄妹でもある輝政と里帆が向かい合っていた。
「里帆……こうしてまた顔を合わせる日が来るとはな」
「ええ。兄さん。孫が生まれるって……本当に不思議な気持ちです」
輝政は苦笑しつつも、眼差しには深い安堵を宿していた。
「玲子のことを、どうか優人に任せてくれ。……俺たちは家族だ」
「もちろん。私も息子も、命を懸けて玲子さんを守ります」
兄妹の言葉は、過去の空白を埋めるように穏やかに交わされた。
◇
そして夕暮れの校舎裏。
部活を終えた真理亜と優依は、楽器ケースを抱えながら並んで歩いていた。
「ねえ、優依。お姉ちゃん、これから大変になるよね」
「うん。でも、私たちが助ければ大丈夫だよ。三人も赤ちゃんがいるんだから、絶対に賑やかになる」
真理亜は小さく笑い、夜空を見上げた。
「私たちも、もう“お姉ちゃんの妹”じゃなくて、“赤ちゃんのおばさん”になるんだね」
「そうだよ。ちょっと変な感じだね。でも……悪くない」
二人の笑い声が、夜風に溶けていった。
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