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第2話「兆しと告白」


 翌朝。

 ホテルで優人と深く愛を交わした玲子は、どこか熱に浮かされたような体の怠さを感じていた。胸の奥に宿る温もりがただの余韻なのか、それとも別の兆しなのか、自分でもはっきりとはわからなかった。

 シャワーを浴びて身支度を整える途中、吐き気にも似た違和感に襲われ、洗面台の縁に手をついた。

 ――これは、もしかして。

 長年、警視庁本部長という責任の重さを抱え、女としての自分を意識する余裕もなかった。だが今は、愛する夫・優人の腕に守られる日々の中で、ひとつの奇跡が訪れようとしている。


 その日、玲子は部下に短い電話を入れた。

「今日は体調が思わしくないから、午後の会議は代理を立ててくれ」

 電話口で応じたのは、信頼の厚い部下のひとり、佐伯俊介さえき・しゅんすけ警視だ。ほかに秘書的役割を担う河野美里こうの・みさと警部補、実務派の黒田一樹くろだ・かずき警部、気配り上手な村井絵里むらい・えり巡査部長、冷静沈着な野上涼のがみ・りょう警部補ら、合わせて五人。皆が一様に心配の声をかけてくれた。

 玲子は「大丈夫よ」と短く告げ、受話器を置いた。


 午後。

 ひとりベッドに腰掛けた玲子は、コンビニで買ってきた妊娠検査薬を震える手で握りしめる。

 そして数分後――視界に映ったのは、迷いようのない“陽性”の線だった。

 胸が大きく波打つ。思わず両手でお腹を抱きしめながら、玲子は深い息を吐いた。

「優人……私たちの命が、ここに……」

 その瞬間、涙が頬を伝った。


 ◇


 一方その頃、弟・遼真は出版社にて、新人作家との対談に臨んでいた。入社5年目、担当編集者として着実に評価を積み重ねてきた彼は、若い作家の真摯な言葉を受け止めながらも、頭の片隅で姉の体調を案じていた。

「姉さん、無理していなければいいけれど……」

 そんな呟きは、仕事の熱気にすぐかき消されていった。


 ◇


 その頃、天城家の妹・真理亜と、優人の妹・優依は、吹奏楽部の部室にいた。放課後の練習を前に、二人は仲間たちに向かってにこやかに宣言した。

「実はね――私たち、親戚になったの!」

 一斉にどよめく部室。クラリネットを手にした真理亜は、緊張しながらも誇らしげに微笑む。横でフルートを構える優依も、嬉しそうに頷いた。


 顧問の柏木誠一かしわぎ・せいいち先生が驚いたように目を丸くする。

「親戚……ということは、まさか……?」

「はい。兄の優人さんと、姉の玲子が結婚したんです」

 その言葉に、部長の**高橋美琴たかはし・みことは思わず拍手を始め、副部長の中村陽介なかむら・ようすけ**も笑みを浮かべて「おめでとう」と声をかけた。


 さらに、真理亜の親友で同じクラリネットパートの**白川花音しらかわ・かのんが「真理亜、本当に良かったね!」と肩を抱き、優依の親友で打楽器担当の佐山未央さやま・みお**も「これで部活の行事にも、ますます賑やかに参加できるね」と微笑んだ。


 部室は拍手と笑い声で包まれ、二人は改めて家族の絆の広がりを実感する。

 真理亜は心の中で思った。――姉さんに新しい幸せが訪れるなら、私も全力で支えたい、と。



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