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第十話「帰還、そして家族の絆」



出雲での事件はようやく幕を下ろした。

狙撃犯・柳瀬透は法廷で判決を受ける。


裁判官の声が静かに響いた。


「被告人・柳瀬透を、殺人未遂および銃刀法違反、さらに刑務所からの逃走に関する罪状により、懲役二十年とする」


かつての先輩であり、玲子を“家族”のように想っていた男は、無言のまま判決を受け入れた。

十年の刑に加え、脱走の罪、銃の不法所持。

積み重なった罪は、透の未来を確実に閉ざした。


玲子はただ、彼の背中を見送るしかなかった。



東京に戻った夜。

天城家の玄関が開く。


「……ただいま」


玲子の声に、廊下へ駆け寄る影がいくつもあった。

遼真、真理亜、そして隆明が続いて入ると、家の空気が一気に温かさを取り戻した。


そして――。


「玲子!」


待ちきれなかったように、優人が駆け寄ってきた。

弁護士見習いの彼は、心配の色を隠せず、強く、強く玲子を抱きしめた。


「……無事で、本当によかった……っ」


震える声で、彼は玲子の額にキスを落とす。

続いて頬に、そして家族の目の前で、ためらいなく唇を重ねた。


一瞬、空気が止まった。

けれど次の瞬間、母・美佐子と家政婦・初枝が、同時に泣き出した。


「よかった……よかったわ玲子……!」

「こんなに心配したことはなかったんですよ……!」


二人の涙が、家の空気を包み込む。

遼真も真理亜も、無言でただその光景を見守った。

隆明は腕を組んで目を伏せながらも、ほんの少し口元を緩める。


玲子は優人の胸に顔を埋め、静かに囁いた。

「……もう、離さないで」


優人は頷き、力強く答える。

「離すもんか。俺たちはもう、夫婦なんだから」


そう――。

婚姻届はすでに横浜編で提出済み。

ふたりは正式に「夫」と「妻」となっていた。


事件の影は深く重かった。

けれど、その闇を超えて帰ってきた玲子を包むのは、愛と絆の温もりだった。


――こうして、出雲での「神在月の婚姻奇譚」は、家族と夫婦の再会と共に幕を閉じた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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