第十話「帰還、そして家族の絆」
出雲での事件はようやく幕を下ろした。
狙撃犯・柳瀬透は法廷で判決を受ける。
裁判官の声が静かに響いた。
「被告人・柳瀬透を、殺人未遂および銃刀法違反、さらに刑務所からの逃走に関する罪状により、懲役二十年とする」
かつての先輩であり、玲子を“家族”のように想っていた男は、無言のまま判決を受け入れた。
十年の刑に加え、脱走の罪、銃の不法所持。
積み重なった罪は、透の未来を確実に閉ざした。
玲子はただ、彼の背中を見送るしかなかった。
◆
東京に戻った夜。
天城家の玄関が開く。
「……ただいま」
玲子の声に、廊下へ駆け寄る影がいくつもあった。
遼真、真理亜、そして隆明が続いて入ると、家の空気が一気に温かさを取り戻した。
そして――。
「玲子!」
待ちきれなかったように、優人が駆け寄ってきた。
弁護士見習いの彼は、心配の色を隠せず、強く、強く玲子を抱きしめた。
「……無事で、本当によかった……っ」
震える声で、彼は玲子の額にキスを落とす。
続いて頬に、そして家族の目の前で、ためらいなく唇を重ねた。
一瞬、空気が止まった。
けれど次の瞬間、母・美佐子と家政婦・初枝が、同時に泣き出した。
「よかった……よかったわ玲子……!」
「こんなに心配したことはなかったんですよ……!」
二人の涙が、家の空気を包み込む。
遼真も真理亜も、無言でただその光景を見守った。
隆明は腕を組んで目を伏せながらも、ほんの少し口元を緩める。
玲子は優人の胸に顔を埋め、静かに囁いた。
「……もう、離さないで」
優人は頷き、力強く答える。
「離すもんか。俺たちはもう、夫婦なんだから」
そう――。
婚姻届はすでに横浜編で提出済み。
ふたりは正式に「夫」と「妻」となっていた。
事件の影は深く重かった。
けれど、その闇を超えて帰ってきた玲子を包むのは、愛と絆の温もりだった。
――こうして、出雲での「神在月の婚姻奇譚」は、家族と夫婦の再会と共に幕を閉じた。
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