第八話「闇に揺れる出雲」
出雲署の取調室。
夜の冷気が窓の隙間から入り込み、部屋の空気を重くしていた。
机の前に座るのは遼真。
向かいには二人の地元警察官――刑事課の村上と杉田。
彼らは資料を机に並べ、淡々と質問を投げかけていた。
「――あなたが第一発見者ですね?」
「はい。僕が……」
遼真は落ち着いた声で応じるが、胸の奥ではざわめきが止まらない。
事件の凶器となった銃弾は未だ見つからず、現場に残された指紋の一部が「遼真の持ち物」と一致していると告げられていた。
「どういうことだ……俺は何もしていないのに」
◆
控室でその様子を待つ玲子の胸も、張り裂けそうだった。
まだ正体を明かせない。だが、このままでは遼真が――。
そこへ、隆明が入ってきた。
「玲子。取調べは長引く。だが……落ち着け」
「……兄さん、もう十分じゃないの? 遼真は何もしていない。これ以上疑いをかけられれば、彼は……」
玲子の声は震えた。
隆明は険しい顔のまま、ゆっくりと首を横に振る。
「まだ証拠が揃っていない。だが――お前の言う通りだ。あいつが犯人じゃないことは、俺も分かってる」
隆明の声は、家族にしか見せない“信頼”を帯びていた。
◆
その頃、取調室の外――。
署内の一室で、柳瀬透の妹・由梨が警察に付き添われていた。
兄の消息を探していた彼女は、玲子にだけ打ち明けた言葉が胸に残っていた。
「お兄ちゃんは……玲子さんのことを、ずっと……」
彼女の目は涙に濡れていた。
透が生活安全局長の息子であること、そして彼が出雲に潜んでいる可能性。
それらの事実は、捜査線上に浮かびながらも“裏”に隠され続けていた。
◆
夜も更けた頃――。
署の外で、一発の銃声が響いた。
「……っ!」
玲子と隆明が同時に立ち上がる。
報告に駆け込んできた若い警察官が叫んだ。
「狙撃です! 屋上から、署内を狙って発砲がありました!」
凍りつく空気。
隆明は即座に指示を飛ばす。
「全員配置につけ! 屋上を押さえろ!」
玲子は血の気を失いながらも立ち尽くす。
狙撃――それは透の存在を示すものに他ならなかった。
◆
一方、取調室の遼真は銃声を聞き、目を見開いた。
(まさか……あの人が?)
彼の胸に、数年前の大学祭の夜に透が語った言葉が蘇る。
――「玲子さんは、俺が守る」
遼真は思わず拳を握りしめた。
「……姉さん、危ない」
◆
出雲の夜は、静寂を失った。
狙撃犯の影は確実に近づいている。
玲子が正体を明かすかどうか――その選択の時は、もう目前に迫っていた。
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