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第6話 青白き炎の謎


 夜半過ぎ。

 《稲荷の湯》の庭先は、月明かりに淡く照らされていた。


 天城遼真は、分厚いコートを羽織り、そっと宿を抜け出した。

 目指すのは裏山の小径。ここで、連夜“狐火”が目撃されている。


 木々の間を抜け、湿った落ち葉を踏みしめながら進むと、冷気の中に漂う微かな刺激臭に気づいた。

 ――リン……。

 大学時代、化学に詳しい友人が語っていたのを思い出す。湿地帯に生じる可燃性のリン化合物は、条件次第で自然発火する。

 しかし、ここは山間の乾いた道だ。自然現象で説明できるとは思えない。


 やがて、視界の先に青白い光がふっと灯った。

 「……出たか」


 狐火は、地面から浮かぶように揺らめき、風に煽られることなく一定の高さを保っていた。

 遼真は慎重に距離を詰める。近づくほどに、光の中心に何か容器のようなものがあるとわかってきた。

 ――金属缶……?


 その瞬間、足元で小石が転がり、闇に音が響いた。

 「誰だ!」

 背後から鋭い声。振り返ると、そこに立っていたのは義兄の橋爪達郎だった。


 「夜中にこんなところで、何をしている」

 「取材の一環ですよ。狐火の正体を知りたくて」

 遼真は平静を装いながら応じた。だが、達郎の目は剣呑に光っていた。


 「余計な詮索はやめろ。この宿を荒らすつもりか」

 「荒らす気はありません。ただ――あなたは、狐火の正体を知っているのでは?」


 達郎は答えず、ただ冷たい視線を残して踵を返した。


 残された遼真は、青白い光に再び視線を戻す。

 炎は次第に弱まり、やがて闇に吸い込まれるように消えた。

 その足元には、確かに人為的に仕込まれた跡――金属片の残骸が転がっていた。


 ――狐火は、誰かの手で作り出されている。

 そして、その目的は“恐怖を演出すること”。


 遼真の胸中で、疑念は確信へと変わった。

 資産家の死も、秘書の転落も、この狐火の幻影と無関係ではない。


 ――これは計画的な連続殺人だ。



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