第五話「隠された系譜」
夜の出雲。
境内の一件から数時間が経ち、事態はさらに大きな波紋を広げていた。
真理亜は震える手で携帯を握りしめ、父・輝政の番号を押した。
呼び出し音の後、すぐに父の低い声が耳に届いた。
「真理亜? こんな時間にどうした――」
「お父さん!」真理亜の声は涙で震えていた。「出雲で……お姉ちゃんが、狙われたの! 相手は……柳瀬透先輩で……」
「……透だと?」
輝政の声が一気に鋭さを帯びた。
「でも、透先輩はもう捕まって刑務所にいるはずじゃ……」
「違うの! 刑期を十年言い渡されたのに、脱走してたの! ニュースでは“受刑者が脱走”ってだけで名前は伏せられてたけど……まさか彼だったなんて……!」
輝政の背後で、兄の隆明の声が響いた。
「父さん……これは重大事案だ。生活安全局にすぐ確認を」
輝政は短く頷き、電話口に戻った。
「真理亜。玲子は無事か?」
「うん……お姉ちゃんは大丈夫。地元の警察官の人たちが捕まえてくれたの。お兄ちゃん(隆明)も一緒にいたから……でも、怖くて……」
「よくやった。真理亜……1人で出雲に行ったのか?」
父の声には、驚きと同時に叱責を抑えた響きがあった。
真理亜は唇を噛みしめ、小さく答えた。
「……お姉ちゃんを守りたかったから」
受話器越しに、一瞬の沈黙が落ちた。
やがて輝政は深く息をつき、静かに告げた。
「分かった。もういい。すぐにそちらへ向かう。玲子と一緒に待っていろ」
◆
その数時間後――
出雲警察署に二人の人物が現れた。
一人は、警視総監・天城輝政。
そしてもう一人は、警察庁生活安全局長・柳瀬剛志。
透の実父であり、今回の事件の責任を直接背負う立場の人物だった。
署内にその姿が現れると、待機していた地元警察官たちが一斉に立ち上がった。
「しょ、警視総監……! そ、それに局長まで……!」
驚きと緊張が交錯し、場の空気が張り詰めた。
輝政は毅然と前に進み、短く言葉を発した。
「柳瀬透を――息子を、どうか確認させていただきたい」
剛志もまた、険しい顔で頭を下げた。
「……父として、そして同じ警察庁の人間として、責任を果たすために」
その姿に、警察官たちは更なる衝撃を受けた。
彼らの前にいるのは、日本警察の最高峰に立つ男たち――そして、その因縁が交錯した瞬間だった。
◆
逮捕された透は、留置場でうなだれていた。
だが、両親の姿を見た瞬間、その目は再び狂気の炎を宿した。
「……父さん。やっと来てくれたんだな」
「透……なぜだ……なぜこんな真似を……」剛志の声は震えていた。
「なぜ? 決まってるだろう。玲子を手に入れるためだ。俺の十年を奪ったあの判決……父さんだって、俺が無実だと思ってるんだろ?」
その言葉に、署内はざわついた。
だが輝政の目は冷酷な光を宿し、淡々と告げる。
「柳瀬透。お前の罪は明らかだ。家族を盾にしても、この事実は覆らない」
透は激しく鉄格子を叩き、狂気の笑みを浮かべた。
「ならいいさ! 俺は一生、玲子を想い続ける! 俺の心は誰にも奪えない!」
その声は虚しく響き、やがて夜の静寂に飲まれていった。
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