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第五話「隠された系譜」



夜の出雲。

境内の一件から数時間が経ち、事態はさらに大きな波紋を広げていた。


真理亜は震える手で携帯を握りしめ、父・輝政の番号を押した。

呼び出し音の後、すぐに父の低い声が耳に届いた。


「真理亜? こんな時間にどうした――」

「お父さん!」真理亜の声は涙で震えていた。「出雲で……お姉ちゃんが、狙われたの! 相手は……柳瀬透先輩で……」


「……透だと?」

輝政の声が一気に鋭さを帯びた。


「でも、透先輩はもう捕まって刑務所にいるはずじゃ……」

「違うの! 刑期を十年言い渡されたのに、脱走してたの! ニュースでは“受刑者が脱走”ってだけで名前は伏せられてたけど……まさか彼だったなんて……!」


輝政の背後で、兄の隆明の声が響いた。

「父さん……これは重大事案だ。生活安全局にすぐ確認を」


輝政は短く頷き、電話口に戻った。

「真理亜。玲子は無事か?」

「うん……お姉ちゃんは大丈夫。地元の警察官の人たちが捕まえてくれたの。お兄ちゃん(隆明)も一緒にいたから……でも、怖くて……」

「よくやった。真理亜……1人で出雲に行ったのか?」

父の声には、驚きと同時に叱責を抑えた響きがあった。

真理亜は唇を噛みしめ、小さく答えた。

「……お姉ちゃんを守りたかったから」


受話器越しに、一瞬の沈黙が落ちた。

やがて輝政は深く息をつき、静かに告げた。

「分かった。もういい。すぐにそちらへ向かう。玲子と一緒に待っていろ」



その数時間後――

出雲警察署に二人の人物が現れた。


一人は、警視総監・天城輝政。

そしてもう一人は、警察庁生活安全局長・柳瀬剛志。


透の実父であり、今回の事件の責任を直接背負う立場の人物だった。


署内にその姿が現れると、待機していた地元警察官たちが一斉に立ち上がった。

「しょ、警視総監……! そ、それに局長まで……!」

驚きと緊張が交錯し、場の空気が張り詰めた。


輝政は毅然と前に進み、短く言葉を発した。

「柳瀬透を――息子を、どうか確認させていただきたい」


剛志もまた、険しい顔で頭を下げた。

「……父として、そして同じ警察庁の人間として、責任を果たすために」


その姿に、警察官たちは更なる衝撃を受けた。

彼らの前にいるのは、日本警察の最高峰に立つ男たち――そして、その因縁が交錯した瞬間だった。



逮捕された透は、留置場でうなだれていた。

だが、両親の姿を見た瞬間、その目は再び狂気の炎を宿した。


「……父さん。やっと来てくれたんだな」

「透……なぜだ……なぜこんな真似を……」剛志の声は震えていた。

「なぜ? 決まってるだろう。玲子を手に入れるためだ。俺の十年を奪ったあの判決……父さんだって、俺が無実だと思ってるんだろ?」


その言葉に、署内はざわついた。

だが輝政の目は冷酷な光を宿し、淡々と告げる。


「柳瀬透。お前の罪は明らかだ。家族を盾にしても、この事実は覆らない」


透は激しく鉄格子を叩き、狂気の笑みを浮かべた。

「ならいいさ! 俺は一生、玲子を想い続ける! 俺の心は誰にも奪えない!」


その声は虚しく響き、やがて夜の静寂に飲まれていった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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