第四話「旧友の執念」
銃声が響いた境内は、一瞬にして緊張の色に包まれた。
警察官たちが境内の外周を走り、サーチライトの光が闇を切り裂く。
隆明はすぐさま無線で指示を飛ばし、玲子と真理亜を背後へと下がらせた。
「動くな!」
鋭い声と同時に、石灯籠の陰からゆっくりと男が姿を現した。
痩せぎすの体格に鋭い眼光。
背筋を伸ばしながらも、どこか狂気を孕んだ笑みを浮かべている。
――柳瀬透。
遼真の高校時代の先輩であり、かつて玲子を慕っていた男だった。
◆
「やあ……玲子さん」
透は銃を下げたまま、親しげに声をかける。
だがその眼差しは愛情ではなく、狂気の熱に濡れていた。
玲子は咄嗟に真理亜を背に庇い、冷徹な声で言い返す。
「柳瀬先輩……どういうつもりですか」
「どうもこうもない。君を迎えに来ただけだよ。俺はずっと……ずっと君を見てきた。なのに、君はあの弁護士風情の男と結婚するだと? 冗談じゃない」
玲子は一瞬息を呑んだ。
――彼は、優人の存在を知っている。
「あなた……まだそんなことを……」
「まだ? 玲子、君は俺のものになるはずだった。あの頃、君が笑ってくれた日々を、俺は一日たりとも忘れていない。なのに君は東京へ行き、警察の人間になり……そして別の男に心を許した。俺の十年を、どうしてくれるんだ!」
透の声は境内に響き渡り、神聖な空気を歪ませた。
◆
隆明が前に出る。
「柳瀬透。君の言葉は妄想だ。玲子はお前のものになったことなど一度もない」
「黙れ!」透が怒声をあげる。「俺はお前なんかより玲子を知っている! お前は兄だろう、兄の目線でしか見てないんだ! 俺は違う、俺は彼女の全てを――」
その時、玲子が冷たく言葉を遮った。
「透先輩。私があなたに笑顔を見せたのは、ただの“友人”としてです。勘違いをしないでください」
透の顔が歪む。
「……勘違い? 俺が君に費やした十年が? 君の笑顔が? 全部、ただの友人の……? 違う! 俺は君を手に入れるためにここまで来たんだ!」
彼の手が再び銃に触れた瞬間、背後から複数の警察官が取り押さえにかかった。
境内に緊迫したもみ合いの音が響き、透は必死に抵抗しながらもついに制圧された。
◆
真理亜は姉の背中に縋りつき、震える声で囁いた。
「お姉ちゃん……怖かった……」
玲子は妹を抱き締め、静かに答えた。
「大丈夫。もう……終わったから」
だが隆明は険しい目をしていた。
「いや……まだだ」
制圧された透が、血走った目で叫んだからだ。
「俺だけじゃない! 玲子を狙う奴は、他にもいる! これは……ほんの始まりに過ぎない!」
その言葉は、天城家と玲子の新婚生活をさらに不穏に揺るがす予兆だった。
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