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第四話「旧友の執念」



銃声が響いた境内は、一瞬にして緊張の色に包まれた。

警察官たちが境内の外周を走り、サーチライトの光が闇を切り裂く。

隆明はすぐさま無線で指示を飛ばし、玲子と真理亜を背後へと下がらせた。


「動くな!」

鋭い声と同時に、石灯籠の陰からゆっくりと男が姿を現した。

痩せぎすの体格に鋭い眼光。

背筋を伸ばしながらも、どこか狂気を孕んだ笑みを浮かべている。


――柳瀬透。

遼真の高校時代の先輩であり、かつて玲子を慕っていた男だった。



「やあ……玲子さん」

透は銃を下げたまま、親しげに声をかける。

だがその眼差しは愛情ではなく、狂気の熱に濡れていた。


玲子は咄嗟に真理亜を背に庇い、冷徹な声で言い返す。

「柳瀬先輩……どういうつもりですか」

「どうもこうもない。君を迎えに来ただけだよ。俺はずっと……ずっと君を見てきた。なのに、君はあの弁護士風情の男と結婚するだと? 冗談じゃない」


玲子は一瞬息を呑んだ。

――彼は、優人の存在を知っている。


「あなた……まだそんなことを……」

「まだ? 玲子、君は俺のものになるはずだった。あの頃、君が笑ってくれた日々を、俺は一日たりとも忘れていない。なのに君は東京へ行き、警察の人間になり……そして別の男に心を許した。俺の十年を、どうしてくれるんだ!」


透の声は境内に響き渡り、神聖な空気を歪ませた。



隆明が前に出る。

「柳瀬透。君の言葉は妄想だ。玲子はお前のものになったことなど一度もない」

「黙れ!」透が怒声をあげる。「俺はお前なんかより玲子を知っている! お前は兄だろう、兄の目線でしか見てないんだ! 俺は違う、俺は彼女の全てを――」


その時、玲子が冷たく言葉を遮った。

「透先輩。私があなたに笑顔を見せたのは、ただの“友人”としてです。勘違いをしないでください」


透の顔が歪む。

「……勘違い? 俺が君に費やした十年が? 君の笑顔が? 全部、ただの友人の……? 違う! 俺は君を手に入れるためにここまで来たんだ!」


彼の手が再び銃に触れた瞬間、背後から複数の警察官が取り押さえにかかった。

境内に緊迫したもみ合いの音が響き、透は必死に抵抗しながらもついに制圧された。



真理亜は姉の背中に縋りつき、震える声で囁いた。

「お姉ちゃん……怖かった……」

玲子は妹を抱き締め、静かに答えた。

「大丈夫。もう……終わったから」


だが隆明は険しい目をしていた。

「いや……まだだ」

制圧された透が、血走った目で叫んだからだ。


「俺だけじゃない! 玲子を狙う奴は、他にもいる! これは……ほんの始まりに過ぎない!」


その言葉は、天城家と玲子の新婚生活をさらに不穏に揺るがす予兆だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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