第三話「狙撃犯の影と妹の決意」
夜の出雲。
月明かりが雲間から差し込み、古都の空気をいっそう神秘的にしていた。
しかしその神秘は、血に濡れた事件現場によって不穏に塗り潰されていた。
◆
玲子が事件の資料を確認していると、背後から慌ただしい足音が近づいてきた。
「――玲子姉さん!」
振り返った瞬間、そこに立っていたのは妹の 天城真理亜 だった。
「……真理亜!? どうしてここに……」
玲子は絶句する。出雲にいるはずがないと思っていた妹が、ひとりで夜行列車を乗り継いでやってきたのだ。
その報せを聞きつけた隆明もすぐに駆けつけ、険しい表情で妹を見下ろした。
「……真理亜、お前、一人で来たのか」
「うん」真理亜は小さく頷いた。
「お母さんが倒れかけて、初枝さんが付き添ってるって聞いて……私が行かなくちゃって思ったの。玲子姉さんと遼真兄さんを守るために」
その言葉に隆明の眉が跳ね上がった。
――守る? 妹がそんなことを言い出すとは思いもしなかった。
◆
玲子は真理亜の肩に手を置き、優しく諭すように言った。
「真理亜……ありがとう。でも危ない事件なの。あなたまで巻き込みたくない」
「分かってる。でも……もう家で待ってるだけなんて嫌なの。お母さんが心配で、私も怖かった。でも、兄さんや姉さんを信じたいから……」
真理亜の瞳は強く輝いていた。
幼さを残したその顔には、家族を思う少女の必死の決意が宿っている。
隆明は腕を組み、沈黙した。
妹の真っ直ぐな言葉に心を動かされながらも、刑事局長としての冷徹な判断が揺さぶられていた。
「真理亜……お前はまだ高校生だ。ここは警察庁でも、天城家の家族会議でもない。犯罪現場なんだぞ」
「だからこそ、私は来たの」
真理亜は一歩前に出る。
「玲子姉さんだって、昔から誰よりも強かった。遼真兄さんは優しすぎて危なっかしいくらい。だから私がそばにいなくちゃって思った。……たとえ危険でも、私は天城家の娘だから」
玲子の胸に熱いものが込み上げる。
母・美佐子の優しさと、父・輝政の信念を、真理亜は確かに受け継いでいた。
◆
その瞬間、闇の中で銃声が鳴り響いた。
鋭い破裂音が夜の出雲を切り裂き、境内の石灯籠を粉砕する。
「――っ!?」
三人はとっさに身をかがめた。
狙撃手がいる――。
隆明は冷静に辺りを見渡し、玲子に低く命じた。
「真理亜を守れ。奴はお前を狙っている」
玲子の背筋に冷たい汗が流れる。
銃口は彼女を狙っていた。理由はまだ分からない。だが確かに、天城玲子が標的なのだ。
真理亜は恐怖に震えながらも、必死に声を上げた。
「姉さん、逃げて! 私がいるから!」
その言葉は涙で震えていたが、確かな覚悟が込められていた。
玲子は妹を抱き寄せ、決して離すまいと強く抱きしめた。
「……大丈夫。絶対に、守るから」
◆
闇の中、銃口の光が一瞬きらめいた。
その影――柳瀬透の存在を、まだ誰も知らなかった。
しかし、この狙撃は単なる警告ではない。
執着と過去の因縁が交錯し、天城家をさらに深い闇へと引きずり込もうとしていた。
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