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第一話「神在月の婚姻奇譚」



出雲の地――十一月。

全国の神々が集い、縁結びの神事が執り行われる「神在月」。普段は静かなこの町も、この時ばかりは参拝客や研究者、観光客で賑わっていた。


天城遼真は、その参道の石畳を歩きながら、どこか落ち着かない面持ちで隣に立つ玲子を見た。

「……本当に、来ちゃいましたね、玲子姉さん」

玲子は肩に掛けたストールを押さえ、笑みを浮かべる。

「久しぶりに、少し羽を伸ばしたかったのよ。優人さんとも相談して……“行ってきなさい”って背中を押されたわ」


その声には、どこか照れくささが混じっていた。

数日前、玲子の携帯に優人から届いたメッセージが蘇る。


――《玲子、今夜は冷えるから厚手のストールを持っていくんだよ。俺の奥さんは可愛すぎるから、風邪なんて引かれたら困るんだから》


遼真はその文面を一緒に見てしまい、顔を赤らめたものだった。

「……弁護士見習いのくせに、随分デレデレですよね」

「ふふ、いいでしょ? 新婚なんだから」

玲子の笑顔は、警察本部長という肩書を離れ、一人の女性として輝いていた。



二人が訪れたのは出雲大社の本殿。

白い息が夜気に溶け、篝火の炎が揺れる境内では、神在月ならではの神事の準備が進められていた。

「すごい人ですね……」

「ええ。でも……やっぱり、どこか張り詰めた空気があるわ」


玲子は職業柄か、参拝客のざわめきの奥に潜む不自然な視線を見逃さなかった。

それが「観光客の熱気」なのか、「何かを隠す人間の影」なのか――彼女には判断がついていた。



その夜。

遼真は宿に戻る途中、裏手の森に立ち寄った。

空気が澄んでおり、どこか神秘的な静けさが漂っていたからだ。

しかし――


「……え?」


木々の間、月光に照らされた白い布。

倒れている人影。

そして、地面に散らばる朱の色――血。


「……まさか……!」


遼真は慌てて駆け寄った。

冷えた頬、動かぬ呼吸。すでに命は絶えている。

「嘘だろ……」


背後で枝が折れる音がした。振り返ると、数人の観光客らしき人々がこちらを凝視していた。

「きゃああっ!」

「人が殺されてる!」


瞬間、遼真の手が血で濡れているのを見て、誰かが叫ぶ。

「犯人は、あの人だ!」


――またしても。

気が付けば、遼真は事件の第一発見者であり、そして容疑者として取り囲まれる立場に立たされていた。



やがて駆け付けた地元警察により、現場は封鎖された。

だがその時、玲子は名乗れなかった。

「私は……ただの旅行者です」

警察本部長であることを告げれば、事件の指揮に介入できるかもしれない。だが今は、立場を明かすことで事態が余計に混乱することを恐れた。


代わりに彼女は、遼真の肩に手を置き、低く囁いた。

「大丈夫よ。あなたは絶対に犯人じゃない。私が必ず……真実を掴むわ」


闇に包まれた出雲の森で、神在月の神事の裏に隠された人間の欲望が、確かに牙を剥き始めていた。



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