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第10話 飛騨の朝


夜を越え、飛騨の山々には澄んだ朝の光が差し込んでいた。

天城家の屋敷には、事件を終えた緊張感がようやく解けはじめ、静けさが戻りつつあった。


その朝――門前に現れたのは、柳瀬由梨だった。

透の妹。制服姿のままの彼女は、小さな鞄を抱え、目を真っ赤にしていた。

後ろには両親も連れ添っていた。父は警察庁生活安全局長という重責を負う男であり、母はどこか疲れた面持ちで玲子を見つめている。


玄関先に出迎えたのは美佐子だった。

「……いらっしゃい」

母の柔らかな声に、由梨は耐えきれず膝を折った。


「……ごめんなさいっ! お兄ちゃんが、玲子さんに、あんな……!」

震える声に、美佐子はすぐさま駆け寄り、その肩を抱いた。

「あなたが悪いんじゃないわ。辛かったでしょう? でも、謝りに来てくれてありがとう」


由梨は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、それでも玲子の前に進み出た。

「玲子さん……お兄ちゃんのせいで、本当にごめんなさい」

玲子は一瞬だけ目を伏せ、そして静かに首を振った。

「あなたは謝らなくていいの。由梨さん……あなたは、家族を思ってここに来てくれた。それだけで十分です」


その言葉に、由梨は声を上げて泣いた。

背後で母親も玲子に頭を下げる。

「娘のためにも、そして私自身のためにも……謝罪をさせてください。本当に、申し訳ありません」

玲子は苦しげに微笑み、ただ「ありがとうございます」とだけ返した。


一方、父親である局長は、輝政に呼ばれ、別室で二人きりになっていた。

机を挟んで座った二人。

局長は顔を歪めて、苦々しく言った。

「……息子の件では迷惑をかけた。だが、あれは個人的な愚かさだ。庁全体を巻き込むものではない」


輝政は鋭い目で相手を見据える。

「親としての責任を問うている。地位や立場ではなく、家庭を顧みなかった代償だろう」

局長は言葉を失い、ただ拳を握り締めた。

「……認めよう。私は、父親失格だ」



数日後――裁判所。

透は証拠と証言により有罪を宣告された。

「懲役十年」

判決が下った瞬間、透は小さく笑みを浮かべた。

「……これで、やっと終わりか」

その姿は、もはや憔悴しきっていた。



そして飛騨の屋敷に戻った日。

応接室には由梨と両親、天城家の面々、そして佐伯優人と玲子が揃っていた。

重たい空気を破ったのは、優人だった。


彼は懐から封筒を取り出す。

「玲子」

玲子が不思議そうに首をかしげると、優人は少し照れたように、けれど真っ直ぐに続けた。


「――婚姻届だ。今日、これを市役所に提出しに行こう」


その瞬間、部屋の空気が一変した。

由梨も両親も驚いて目を見開き、玲子自身も言葉を失った。

「……優人さん、ここで……?」


優人は微笑みながら、ポケットに手を伸ばす。

そこから取り出されたのは、小さなケース。

ぱちりと開くと、指輪が朝日を受けてきらめいた。


「玲子、俺と結婚してください。もう遠距離に苦しむことも、誰かに邪魔されることもない。これからは、正式に夫婦として共に生きていこう」


玲子の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。

「……はい。お願いします」


由梨はその様子を見て、胸を押さえながらも笑顔を浮かべた。

「玲子さん……幸せになってください。お兄ちゃんの分まで」


母親も深く頷き、父親である局長でさえも小さく息を吐き、視線を逸らした。


――こうして、飛騨の朝に誓われた新たな約束。

天城家は再び絆を確かめ合い、そして玲子と優人は、新たな一歩を踏み出したのだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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