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第7話 妹の告白



夜の天城家。

居間には柔らかな灯りがともっていたが、その雰囲気とは裏腹に、空気は張り詰めていた。


ソファに腰を下ろした柳瀬由梨は、両手をぎゅっと膝に押し当てていた。蒼白な顔、震える声。

玲子は優人と並んで座り、真理亜と美佐子は不安げに彼女を見つめ、初枝は少し離れて控えていた。

父・輝政と隆明は背筋を伸ばし、あえて言葉を挟まず、少女の言葉を待っていた。


やがて由梨は、決意を固めるように深呼吸し、口を開いた。


「……兄は、銃を持っています」


部屋に小さな衝撃が走った。

玲子は思わず息を呑み、優人が彼女の肩に手を置く。


「銃?」と隆明が低い声で問い返す。

由梨は小さく頷いた。

「はい。正規のものじゃありません。……父の知り合いから、裏で譲ってもらったって。私は偶然、兄の部屋で見てしまったんです」


遼真の胸がざわつく。

「透先輩は……父親が生活安全局の局長だったよな。そのコネを使ったのか」


由梨は唇を噛む。

「そうかもしれません。兄は『玲子さんを奪うためなら何でもする』って……。銃を持っていれば、誰も逆らえないって……」


玲子は蒼ざめた顔で俯いた。

母・美佐子がそっと彼女の手を握り、言葉をかける。

「……そんな馬鹿なこと。命を奪うなんて、愛じゃありません」


しかし由梨は涙を流しながら首を振る。

「兄はもう、私たちの言葉が届かないんです。……だからお願いです、止めてください。玲子さんに危害が及ぶ前に」



沈黙を破ったのは父・輝政だった。

「娘さん、君の話は極めて重大だ。警察に正式に証言してもらう必要がある。だが……今ここで聞いたことは、家族としても重く受け止めねばならん」


隆明も厳しい目を向けた。

「柳瀬透の件は、もはや“恋のもつれ”では済まされない。銃器不法所持、計画性のある脅迫未遂……立派な凶悪事件だ」


玲子は震える声で問う。

「……どうしてそこまで、私に?」


由梨は涙で滲んだ目を玲子に向ける。

「兄は……玲子さんに憧れていたんです。高校時代からずっと。成績優秀で、華やかで、誰よりも眩しい存在だって。でも、それがやがて“自分のものにしなければならない”に変わってしまったんです。……私には、兄がただ壊れていく姿しか見えませんでした」


玲子の瞳に影が差した。

――自分の存在が、誰かの人生を歪ませてしまったのだろうか。

胸の奥に罪悪感のような痛みが広がっていく。


優人がすぐに彼女の手を包み込む。

「玲子さん、あなたのせいじゃない。彼自身の選択の問題だ」


玲子は優人を見つめ、小さく頷いた。



その時、真理亜がそっと由梨の隣に座り、ハンカチを差し出した。

「……大丈夫。私たちが必ず守るから」


由梨は受け取り、声を詰まらせながら微笑んだ。

「ありがとうございます……。でも、兄は本当に危険です。最近、家にも帰っていませんし、母も心配で……。もしかしたら、次に何をするか分からない」


その言葉に、遼真は鋭い視線を投げかけた。

「由梨……兄さんが今どこにいるか、心当たりはないのか?」


彼女は震える声で答える。

「……多分、あの古い別荘に。父の知人から借りていた場所があるんです。山奥で、人目につかない……」


隆明がすぐさまメモを取り、父・輝政と視線を交わす。

輝政は立ち上がり、低い声で告げた。

「――よし、次の手は決まったな。柳瀬透を捕まえに行く」


その場にいた全員の胸に、重苦しい決意が刻まれた。

そして玲子は悟った。

――自分を狙った銃弾は、まだ終わりではない。真の対決はこれから始まるのだ、と。



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