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第6話 妹の訪問



その夜。

天城家の居間には、暖かな灯りがともっていた。玲子は優人と母・美佐子に囲まれ、まだ昼間の狙撃未遂の余韻から抜け出せずにいた。父・輝政と隆明も応接間で捜査の連絡を取り合っている。


そんな中、遼真は一人、書斎の机に向かって携帯を握っていた。

躊躇いながらも、思い切って番号を押す。


――プルルル、プルルル。


数コールののち、受話口から怯えた声が響いた。

「……はい、柳瀬です」


「俺だ、天城遼真だ。……この間、カフェで会ったろ?」


「あ……天城さん。急にどうしたんですか」


「率直に聞きたい。――透先輩の居場所を、本当に知らないのか?」


一瞬の沈黙があった後、少女の声が震えた。

「……ええ。本当に分からないんです。兄はここ数日、家に帰っていません。母も泣いていて……でも、兄は玲子さんのところに行ったんでしょう? だって、玲子さんしか兄にはいないんですから」


遼真の胸に嫌なざわめきが広がる。

「……俺はそうは思わない。玲子姉さんを追い詰めているのは、ただの歪んだ執着だ」


由梨は小さく笑った。

「でも、兄は本気なんです。――会って、もっと話したいです」


その言葉に、遼真は深く息をついた。

「……分かった。じゃあ、今から来られるか?」


「はい。1時間後くらいには」


通話が切れると同時に、遼真の胸に不安が広がった。

――彼女を呼ぶべきじゃなかったのかもしれない。



約束から1時間後。

天城家の玄関のチャイムが鳴り響いた。


「はい……」と初枝が戸を開けると、そこにはコートに身を包み、怯えた表情の柳瀬由梨が立っていた。


「夜分にすみません……」


遼真が玄関に現れ、短く頷く。

「入って。……ここなら安全だ」


由梨は遠慮がちにリビングに通されると、家族の視線に一瞬肩をすくめた。玲子は驚き、優人は慎重に彼女を見つめている。母の美佐子と妹の真理亜も互いに顔を見合わせ、初枝は茶を準備した。


遼真が口を開く。

「玲子姉さんを狙った狙撃事件。……心当たりはあるか?」


由梨は震える手でカップを握りしめ、視線を落とした。

「……兄がしたんですよね? 玲子さんを撃とうとしたのは……」


玲子は息をのむ。

「あなた、どうしてそう思うの?」


「だって……兄は昔から玲子さんの話ばかりでした。結婚するのは当然だって。天城家に入るのも夢だって……。でも現実には玲子さんは別の人と……。だから兄は、壊れてしまったんです」


部屋の空気が凍りつく。


遼真は妹の言葉を噛み締めながら、心の奥で確信していた。

――透先輩はもう常軌を逸している。

そして、妹はその「被害者」でありながら「共犯者」にされかけているのだ。


玲子が口を開きかけた時、由梨の目から涙が零れ落ちた。

「……兄を助けてください。母も、私も、もう限界なんです」


夜の静けさの中、少女の声は痛々しいほどに響き渡った。



その瞬間、家族全員が感じていた。

これは単なる「個人的な恋のもつれ」ではなく――

柳瀬透の歪んだ執着が、確実に天城家を巻き込み始めているのだ、と。



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