第5話 封じられた記録
横浜県警の会議室。張りつめた空気の中で、玲子は拳を握りしめたまま父や兄の言葉を聞いていた。
「庁内の闇が……絡んでいるのね」
玲子が呟いたその時、遼真が一歩前に出た。
「――違います、玲子姉さん」
全員の視線が彼に注がれる。
遼真は深く息を吸い、しっかりとした声で続けた。
「柳瀬透先輩の執着は、庁内や政治とは関係ありません。……個人的な恋です」
玲子は驚きに目を見開いた。
「個人的……?」
「はい。僕、高校時代に直接聞かされたことがあるんです。
『玲子さんは俺の理想だ。いつか絶対に手に入れる』……そんな言葉を」
会議室の空気がざわめく。隆明が腕を組み、父・輝政も険しい顔をした。
遼真はさらに続けた。
「先輩が警察官になったなんて、僕は知りませんでした。けれど……彼には妹がいるんです。実は、僕が出版社に入ってから数日前に、その妹から突然連絡がありました」
玲子が息をのむ。
「妹……?」
「はい。電話のあと、直接カフェで会ったんです」
――数日前。
都内の落ち着いたカフェ。遼真が席に座ると、そこに現れたのは透とよく似た目元を持つ少女だった。
「初めまして……柳瀬由梨です。透の妹です」
そう名乗った彼女は、落ち着きのある物腰の中に不安の色を漂わせていた。
「兄のこと、覚えてますよね? 天城玲子さんのことを……よく話していたでしょう?」
由梨は立て板に水のように話し始めた。
「玲子さんは美しくて、聡明で、兄にとって唯一無二の存在だって。結婚するのは当然で、兄は運命を信じてるんです。……でも最近、兄は帰ってきません。連絡も取れないし、母も心配して……。あなた、兄のこと、何か知りませんか?」
その目は切実でありながら、どこか異様な執着を映していた。
遼真は曖昧に首を振るしかなかった。
「……僕には何も分かりません」
由梨は小さく微笑む。
「そうですか。でも、兄は必ず玲子さんのところへ戻ります。だって、そうじゃなきゃおかしいでしょう?」
その言葉に、遼真は背筋を冷たいものが走った。
――そして今。
会議室で遼真は玲子を見つめ、淡々と語った。
「彼の妹は……兄の帰りを信じています。でも、話していて気味が悪かった。玲子姉さんのことばかり、兄の代わりに僕へ語り続けるんです。
……けれど、実際には透先輩は家に帰っていない。電話も繋がらず、母親も心配しているそうです」
玲子の顔色が変わる。
優人が隣で低く呟いた。
「つまり……透はすでに家族からも姿を消している。個人的な恋の執着が暴走して、玲子を狙った――」
隆明が鋭い声を発した。
「だが、いくら個人的な恋だとしても、銃を扱える時点でただ者じゃない。背後に何らかの訓練や繋がりがあるはずだ」
玲子は唇を噛んだ。
「……いずれにせよ、放ってはおけないわ。彼がまだ動いているなら、必ず私の前に現れる」
輝政は深いため息をつき、短く言った。
「庁内の闇か、個人の執着か……。いずれにせよ、これは“天城家”全員で向き合うべき問題だ」
窓の外には、冬の冷たい風が吹き荒れていた。
その風は、柳瀬透という男の異様な影を、確かに呼び込んでいるかのように。
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