表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/118

第3話 狙撃犯の影



大広間に響いた銃声は、祝宴の空気を一瞬で引き裂いた。

会場にいた誰もが息を呑み、凍りついたように動けなくなる。


「玲子!」


優人が真っ先に動いた。弁護士見習いとしての冷静さを捨て、ただ一人の婚約者を守ろうと身を投げ出した。玲子の肩を抱き寄せ、その身体を覆う。直後、シャンデリアの脇の柱に弾痕が刻まれ、白い破片が散った。


「……狙われたのは、私?」

玲子の声は低く、しかし震えてはいなかった。


銃声の方向を見定めた刑事部長・横溝昭二が声を張り上げる。

「狙撃だ! 全員伏せろ! 警備班、窓の外を確認しろ!」


警備部長の大塚辰巳もすぐさま動く。部下たちが一斉に窓際に走り、外の建物や屋上を睨みつけた。しかし犯人の影はどこにも見えない。


「玲子、本当に大丈夫か?」

優人が彼女の頬を覗き込み、震える手で肩を押さえた。


「ええ……かすりもしていないわ」

玲子は落ち着いた様子で答えたが、彼女の目は鋭く光っていた。まるで狙撃犯の意図を必死に読み取ろうとしているかのように。


――なぜ私が狙われた?


祝宴の主役は佐伯家と天城家。狙撃者の標的が玲子である理由は、現場にいる誰もがすぐには理解できなかった。


そのとき、会場の隅で伏せていた遼真が小さく息を呑んだ。

心の奥底でひとつの名前が浮かび上がったからだ。


「……柳瀬透」


高校時代の先輩。遼真の一学年上で、地元でも評判の秀才だった。だが彼には秘密があった。遼真がまだ高校一年の頃、すでに大学生になっていた柳瀬は、しばしば学校に顔を出し、後輩たちに慕われていた。


だが、彼が本当に想いを寄せていたのは――玲子だった。


当時、玲子は大学生。警察官僚の娘として既に頭角を現しており、美貌と知性を兼ね備えた存在だった。柳瀬は彼女に憧れ、同級生や後輩の前で何度も彼女を褒め称えていた。遼真は偶然、その場に居合わせて知ってしまったのだ。


だが玲子が彼に振り向くことはなかった。柳瀬は想いを伝えることもなく、やがて大学を卒業して消息を絶ったと聞いていた。


――まさか。


狙撃犯が柳瀬透だと断定する証拠はない。だが、玲子を狙う理由を持つ人物として、真っ先に思い浮かぶのは彼しかいなかった。


「遼真、顔色が悪いぞ」

すぐ傍にいた隆明が低く問いかける。


「兄さん……もし狙撃犯が、本当に玲子姉さんに執着を持っている人物だとしたら……」

遼真の声は震えていた。


隆明が目を細めた。

「……知っているのか?」


遼真は小さく頷いた。

「高校時代の先輩です。名前は――柳瀬透」


隆明の瞳に緊張が走る。父・輝政もその名を聞き取り、険しい顔をした。

「柳瀬……確か、警察庁に入るという噂もあったが、消息を絶ったはずだ」


一方で玲子と優人は、この名に聞き覚えがなかった。二人は顔を見合わせる。


「柳瀬透……知らないわ」

玲子は小さく呟く。


「俺もだ。玲子を狙う人物だというのか?」

優人の瞳に怒りが灯る。


遼真は強く唇を結んだ。

「……もし彼が犯人だとすれば、姉さんを狙う動機は“過去の執着”です。でも、今どこで何をしているのかは僕にもわからない」


銃声が鳴り響いた窓の外は、すでに警察官たちによって封鎖されつつあった。しかし――


「狙撃犯の影は、まだそこに潜んでいる」


玲子は窓の向こうに視線を向けた。

夜の横浜の街並み。そのどこかに、確かに彼女を狙う瞳が存在しているのだ。


会場全体に不気味な沈黙が広がった。

祝宴は、もはや完全に“戦場”と化していた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ