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第十話「絆の誓い」



 飛騨で起きた旧家の婚礼事件――。

 真犯人が捕まり、無事に花嫁も救出されたのは夜明けの頃だった。緊張と安堵の余韻がまだ残るなか、玲子と優人は共に天城家の居間に座っていた。


 事件を共に乗り越えたからこそ、二人の心は一層近く結ばれていた。

 しかし、その背後に立ちはだかるのは、天城家という大きな存在である。



父・輝政と兄・隆明


 「……なるほど。君が玲子の婚約者になりたいと、そういうわけか」

 警視総監である父・輝政は、深い皺を刻んだ眉間に手を当て、優人を真正面から射抜くように見据えた。


 「はい。まだ弁護士見習いの身ですが、玲子さんを必ず幸せにします」


 堂々とした答えに、兄・隆明(警察庁刑事局長)は苦笑を漏らす。

 「口だけなら誰でも言える。……だが、飛騨でのお前の立ち回りを、俺も見ていた。遼真を支え、玲子を守った。その胆力は認める」


 父はしばし沈黙したが、やがて重々しく頷いた。

 「玲子を泣かせるようなことがあれば、容赦はしない。それでもいいな?」

 「はい」

 優人は深く頭を下げた。



母・美佐子、妹・真理亜、そして家政婦・初枝


 「優人さん」

 母・美佐子が、静かに言葉を重ねた。

 「娘を思ってくださる気持ちが伝わってきます。……どうか、玲子を一人にしないでください。それだけが母としての願いです」


 横で聞いていた真理亜は、ぱっと笑顔を見せた。

 「優人さん、約束してね! お姉ちゃんを泣かせないでよ? もし泣かせたら、私が許さないから!」


 さらに家政婦の初枝が、目尻に皺を寄せて頷いた。

 「佐伯様。どうか玲子お嬢様を、貴方の人生の中で何よりも大切にして差し上げてくださいませ。……私はいつまでも、お嬢様の味方でございますから」


 玲子はその言葉に、胸がいっぱいになり、思わず優人の手を握りしめた。



友人・遼真の言葉


 そして最後に、一歩下がって様子を見ていた遼真が前に出た。

 「優人さん」

 彼の声はどこか落ち着いていた。事件の最中に推理を披露した少年探偵の眼差しであり、同時に姉を大切に思う弟の眼差しでもあった。


 「姉貴は……強そうに見えて、本当は不器用なんです。だから支えてくれる人が必要なんです。――優人さんがその人なら、俺は心から応援します」


 その言葉に、優人は真剣な表情で頷いた。

 「必ず玲子さんを守ります。遼真くんも……ありがとう」



 こうして、天城家全員の前で優人は決意を表明した。

 玲子の頬には涙が伝っていたが、その瞳は確かに輝いていた。


 夜明けの空が白みはじめる頃。

 家族と友人に見守られながら、玲子と優人はそっと視線を交わした。

 ――遠距離であっても、寂しさに揺らいでも、必ず結ばれる未来がある。

 そう確信できた瞬間だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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