第八話「手紙のぬくもり」
優人が東京へ帰った翌日から、玲子の部屋はどこかぽっかりとした穴が空いたように静まり返っていた。
朝目覚めても、隣に優人の気配はない。
仕事に向かう準備をしていても、どこか心ここにあらずで、ふとした瞬間に昨夜の川沿いの光景や、ホテルで交わした初めてのキスが脳裏に蘇ってしまう。
――本当に、これから遠距離でやっていけるのだろうか。
心配になった玲子は、仕事の合間にペンを取り、便箋に想いを綴り始めた。
『優人さんへ。無事に東京に戻れましたか? 私は、昨日からずっと胸がざわついています。あなたがそばにいないだけで、こんなに寂しいものなのだと、改めて気づきました……』
書きながら、目頭がじんわり熱くなった。手紙を封じ、ポストに投函すると、心の奥に少しだけ温かさが宿る。
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数日後、優人からの返事が届いた。
『玲子、元気にしてるか? 俺は毎日、君のことを考えている。仕事で疲れても、思い浮かぶのは君の笑顔だ。手紙を読んで、同じ気持ちなんだと知れて嬉しかった。次に会える日を楽しみにしてる』
封筒から漂うインクの香りに、玲子の心は一気に安堵で満たされた。
電話もかけてくれるが、仕事の忙しさから長話はできない。だからこそ、互いに綴る手紙のやりとりが、ふたりの心を繋ぐ大切な橋渡しとなっていった。
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ある晩、玲子はリビングで父・天城輝政と兄・隆明に呼び止められた。
「玲子」
低い声で父が口を開く。
「最近は……佐伯君のことばかり考えているようだな」
図星を突かれて、玲子は言葉を失った。
兄の隆明が、新聞を畳みながら淡々と続ける。
「恋は悪いことじゃない。だが、玲子、お前は警察本部長の娘だ。優人君も法律家を志しているなら、いずれは世間から注目される立場になる。今のうちから覚悟を持っておけ」
父・輝政はさらに厳しい眼差しを向ける。
「……恋に溺れるのはまだ早い。お前も警察官僚の家に生まれた娘だ。警察行政のこと、もっと学んでおけ。男に頼るばかりではなく、自分の足で立つんだ」
玲子は小さく俯きながら、父の言葉を噛みしめた。
「はい……わかっています」
胸に刺さるような父の言葉。しかし同時に、彼なりの愛情だとわかっていた。兄も無表情に見えて、実は心配している。
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その夜、机に向かった玲子は再び便箋を広げる。
『優人さん。お父様とお兄様から、もっと自分を磨けと言われました。正直、少し厳しい言葉でしたが……その通りだと思います。私も、あなたの隣に胸を張って立てるようになりたい。遠くにいても、共に成長していきましょう』
書き終えた手紙を封じた瞬間、玲子の表情は少しだけ引き締まっていた。
寂しさを抱えながらも、強さを学んでいく。
遠距離の絆は、彼女の心を少女から大人へと変えていく過程でもあった。
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