第四話「不意の帰省」
秋の風が冷たさを増した頃。
玲子は学業と警察本部長という重責を担う父の娘としての役割に追われ、心身ともに疲弊していた。兄の隆明も東京勤務で忙しく、弟の遼真も旅に出ることが多い。気丈に振る舞ってはいたが、胸の奥ではどうしようもない孤独が広がっていた。
ある夜、机に向かっていると、ふと涙が頬を伝った。
「……会いたい。優人に」
声に出すと、抑えていた感情が一気にあふれそうになった。
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その翌日。
玄関先で突然チャイムが鳴り、玲子が応対に出ると、そこには見慣れた姿が立っていた。
「――優人!」
驚きと喜びで声が震える。
彼は少し疲れた顔をしていたが、笑顔で頭を掻いた。
「玲子に会いたくて……急に来ちゃった」
玲子は思わず駆け寄り、その胸に飛び込む。
「どうして……こんな時に……!」
「手紙で寂しそうだったから。放っておけなかった」
優人の声は温かく、玲子の涙を受け止める。
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居間に通すと、母と家政婦が温かく迎えた。
「まあまあ、優人さん……わざわざ来てくださって」
「お帰りなさいませ。玲子お嬢様も、これで少しは安心なさるでしょう」
母と初枝の言葉に、玲子は顔を赤らめて「もう……」と抗議するが、嬉しさは隠せなかった。
その夜、二人きりになった庭で。
玲子は小声で尋ねた。
「勉強は大丈夫なの?」
「多少無理してでも、君の顔を見たほうがよほど力になる。玲子、遠距離でも気持ちは変わらない。むしろ、君を思うたびに頑張れるんだ」
玲子は胸が熱くなり、彼の手を握った。
「……ありがとう。私も、どんなに離れていても優人を信じているわ」
月明かりの下で、二人はそっと唇を重ねた。
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その光景を、部屋の窓から遼真がにやにやと眺めていた。
「やれやれ……お姉ちゃん、すっかり恋する乙女だな」
ぼやきながらも、どこか安心したように笑っていた。
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こうして玲子と優人は、遠距離の不安を一つ乗り越え、互いの存在の確かさを噛みしめるのだった。
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