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第三話「文通と約束」



 優人が東京に旅立ってから、玲子の日常はどこか色を失ったようだった。

 学校から帰れば机に向かうものの、ふとした瞬間に窓の外を見つめてしまう。空の青さや沈む夕日の赤が、彼の姿を連想させるのだ。


 そんな玲子を案じたのは、母と家政婦だった。

 「玲子お嬢様、顔色が優れませんわ。少しお茶でもいかがですか?」

 「……ありがとう。でも大丈夫」

 玲子は笑みを浮かべたが、母は見抜いていた。

 「強がらなくていいのよ。玲子。遠くにいても、想いは届くわ」


 その夜、遼真がノートを差し出した。

 「お姉ちゃん、これ……優人さんに手紙書けば? 電話もいいけど、字って残るし、読むと落ち着くんだよ」

 玲子は一瞬目を丸くした。

 弟の不器用な優しさに、胸がじんと熱くなる。

 「……そうね。書いてみようかしら」



 それから二人の間には、手紙のやり取りが始まった。

 玲子は日々の出来事を丁寧に綴り、優人は慣れない東京での勉強や寮生活を正直に書き送った。


 ある手紙には、こう記されていた。


 ――玲子、君に会えない日々はつらいけれど、この試練を乗り越えて必ず弁護士になる。だから待っていてほしい。君の笑顔を思えば、どんな授業も苦にならない。


 玲子はその文面を胸に抱きしめ、涙をこぼした。



 数週間後、久しぶりに電話が鳴った。

 「玲子? 元気か」

 受話器の向こうから聞こえる声に、胸が震える。

 「元気……優人は? 無理してない?」

 「もちろん。だけどな、こっちは寮のメシがひどくてさ。玲子の料理が恋しい」

 「ふふ、それなら今度帰省したときに作ってあげるわ」


 二人は互いの声を確かめ合い、最後に約束を交わした。

 「必ず会いに帰る。だから玲子も、泣かずに待っててくれ」

 「ええ、約束よ」



 その後ろで、遼真が壁越しににやにやと聞き耳を立てていた。

 母と家政婦もそっと微笑む。

 遠距離という試練の中で、玲子と優人の絆は確かに育まれつつあった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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