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第二話「遠距離のはじまり」



 高校生活が始まってから、玲子と優人は自然に距離を縮めていった。

 学級委員に選ばれた二人は、会議や行事の準備で顔を合わせる機会も多く、気がつけば周囲から「二人はいいコンビ」と評されるようになっていた。


 だが、三年生の夏。

 優人がふいに告げた進路の話は、玲子にとって大きな衝撃だった。


 「……東京の大学に進学するつもりなんだ」

 「東京?」

 玲子の声がわずかに揺れる。


 「うん。弁護士を目指したい。法学部のあるところで、しっかり学ばないといけないから」

 「そう……」


 玲子は笑顔を作ろうとしたが、胸の奥にぽっかり穴が開いたような気持ちを隠せなかった。

 その夜、彼女は一人ベッドの上で、何度も天井を見上げては「遠距離恋愛」という言葉を反芻した。



 それから数日後。

 学校帰りに、優人は玲子の弟・遼真を呼び止めた。


 「なあ、遼真。ちょっと相談があるんだ」

 「え? 僕に? お姉ちゃんのこと?」

 遼真は首を傾げつつも、興味深そうに耳を傾ける。


 「実は……東京に行くことになる。玲子と離れるのが不安なんだ。彼女は強く見えて、意外と心の奥にため込むタイプだから」

 「ふーん……たしかに、お姉ちゃんって表ではきりっとしてるけど、夜になるとこっそり泣いてることあるもん」


 「やっぱり……そうか」

 優人はため息をつく。

 「だから、遼真。俺がいない間、玲子のそばにいてやってくれないか。弟としてじゃなく、俺の代わりに」


 遼真は少し驚いた顔をした。

 けれど次の瞬間、真剣な表情に変わる。

 「わかった。僕、お姉ちゃんの笑顔を守るよ。優人さんのことも伝えておく」


 優人は思わず目を細めた。

 「ありがとう。君が弟でよかった」



 やがて春が訪れ、優人は東京へ。

 見送りのホームで、玲子は涙をこらえきれずに優人の胸に飛び込んだ。


 「……絶対、浮気しないでよ」

 「するわけないだろ。玲子だけだ」


 電車が動き出す。

 窓越しに交わされた視線は、離れてもなお強く繋がっていた。


 その後ろで遼真が小さく呟く。

 「僕、ちゃんと見てるからね……お姉ちゃんのことも、優人さんのことも」


 遠距離恋愛は、こうして始まった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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