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第8話 逆転の推理



 沈黙の取調室。

 遼真は手錠を掛けられたまま、じっと机に置かれた真珠のかんざしを見つめていた。


 (どうして、こんなものが僕の鞄から……。でも、あり得ない。僕は触ってもいない。ならば――)


 ふと、頭に浮かんだのは昨夜の花嫁行列の光景。

 白無垢姿の花嫁が、松明に照らされながら石段を下る。その背に続く親族たちの列。

 ――あのとき、自分は確かに違和感を覚えた。


 取調官が苛立った声を投げかけた。

 「天城遼真、まだ否認を続けるつもりか?」


 遼真はゆっくりと顔を上げる。

 「……いいえ。僕は否認ではなく、真実を語るつもりです」


 刑事たちが一瞬、眉をひそめた。

 「真実?」

 「ええ。花嫁行列の“トリック”です」


 遼真の声は、静かに、しかし確信を帯びていた。


 「昨夜の行列、花嫁は本当に一人でしたか?」

 「なにを言う」

 「いいえ。あれは二人いたんです。入れ替わっていた――だから現場にいた“花嫁”は、最初に歩き出した女性とは別人だったんです」


 ざわめく取調室。


 遼真はさらに続ける。

 「すり替えられたのは、ちょうど石段の中ほど。灯火と白無垢の布で死角を作れば、花嫁同士が入れ替わるのは容易い。そして“本物”の花嫁の持ち物が僕の鞄に仕込まれたのは、その混乱の最中。つまり僕を犯人に仕立て上げるための罠なんです」


 刑事たちが顔を見合わせる。

 その視線の奥には、動揺と、しかし「もしや……」という予感があった。


 そのとき、ドアが開き、姉・玲子が入ってきた。

 「……今の話、もう一度詳しく聞かせて」

 彼女の眼差しは、弟を容疑者としてではなく、探偵役として見つめていた。


 遼真は深く息を吸い込み、花嫁行列に仕掛けられた「入れ替わりのトリック」の全貌を語り始めた。



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