第5話 友の証言
取調室の外。廊下は沈黙に包まれていた。
家政婦の初枝と、母・美佐子、妹・真理亜は落ち着かぬ様子で椅子に腰を下ろしている。そこへ署員が案内したのは、一人の青年だった。
「天城遼真さんのご友人で……」
警察官が言葉を添えると、彼は軽く頭を下げた。
――篠崎直樹。
遼真と同じ高校の同級生で、現在は地方新聞の記者をしている青年である。
かつて何度も天城家を訪れ、美佐子の手料理を食べたこともあり、真理亜とも兄妹のように親しく過ごしていた。
「篠崎君……!」
美佐子の表情にわずかな安堵が浮かんだ。
直樹はすぐに取調室へ通され、遼真に関する証言を求められた。
彼は落ち着いた声で語った。
「天城は昔から嘘がつけない性格でした。人をからかったり、傷つけるようなことは決してしない。少なくとも僕が知る限り、彼が誰かを害するなんてあり得ない」
調書に記録されるその言葉は、遼真にとって貴重な一石となった。
だが同時に、警察側の刑事は冷ややかに付け加える。
「しかし、それは“友人”としての主観的な見方では?」
証言を終え、直樹は取調室を後にした。
廊下で待っていた天城家の人々に、彼は真っすぐな声で言った。
「証言しましたよ。遼真はそんなことする人間じゃないって、はっきり伝えました」
母・美佐子は瞳を潤ませながら深く頭を下げた。
「ありがとう、篠崎君……」
真理亜も堪えきれず口を挟む。
「お兄ちゃんを信じてくれて、ほんとに……!」
そのやりとりを見ていた父・輝政、兄の隆明、姉の玲子。
彼らの表情にはわずかな揺らぎが見えたが、それでも職務に徹する姿勢を崩さなかった。
「証言は証言だ。感情ではなく、事実で裏付けられねばならない」
玲子の言葉が重く響く。
直樹は苦い顔で頷いた。
「ええ、分かっています。でも、僕は記者です。真実を追うのは僕の仕事でもある。だから、遼真のためにも調べてみます」
その決意の響きが、張り詰めた空気にかすかな希望を灯した。
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