第4話 家族の葛藤
事情聴取を終えた遼真は、重い足取りで留置室に移されるのかと覚悟していた。しかしその前に、警察署内の空気を震わせるような光景が繰り広げられていた。
警視総監である父・輝政、刑事局長の長兄・隆明、地方警察本部長の姉・玲子。警察組織の中枢に立つ三人が、同じ場所に居合わせたのだ。地元署員はただならぬ威圧感に息を呑み、視線を逸らすこともできない。
だが、その場の空気を最も苦しく感じているのは、母・美佐子と妹・真理亜だった。
「お父さん……、遼真は絶対に犯人じゃありません」
真理亜の声は震えていた。普段は明るくおしゃべりな妹が、必死に涙を堪えて父に訴えている。
「真理亜……」
輝政は視線を落とした。娘の必死の想いを理解しながらも、その口調は職務に縛られていた。
「父親としては信じたい。だが警視総監としては、証拠を無視するわけにはいかん」
その言葉に真理亜は唇を噛み、椅子の背にすがりつく。母・美佐子が肩に手を置き、静かに言った。
「……あなた。母親の勘、と言われれば軽いかもしれない。でも、私は信じているの。あの子は嘘をつく子じゃない。何より、人を傷つける子じゃないのよ」
隆明が口を開いた。
「母さん、その気持ちは分かる。だが、俺たちは家族であると同時に、警察官でもある。弟を庇えば庇うほど、世間は『やはり怪しい』と見るだろう」
玲子もまた厳しい表情で続ける。
「兄さんの言うとおりよ。だからこそ、私たちは正しく事件を追うしかないの」
家族の想いは交差し、苦悩が深まるばかりだった。
――愛する息子を信じたい母と妹。
――警察として真実を見極めねばならない父と兄、姉。
美佐子は両手を胸に組み、静かに呟いた。
「遼真……あなたは一人じゃない。必ず助けてみせるから」
その言葉は、暗く重い署内に小さな灯火のように響いた。
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