表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/118

第3話 容疑者、天城遼真


 警察署の一室。

 古びた机の上に、遼真の鞄と拾った花嫁の髪飾りが置かれていた。

 「なぜ現場でこれを持っていた?」

 刑事の低い声に、遼真は淡々と答える。

 「落ちていたから拾った。ただそれだけです」

 「だが目撃証言では、あんたが花嫁を連れ去ったと――」

 「証言は錯綜しているはずだ」


 やり取りが続く中、署のロビーでは別の光景が広がっていた。


 母・美佐子、妹・真理亜、家政婦・初枝の三人が並んで椅子に座っていた。緊張で手を握り締める真理亜が、母に震える声で言う。

 「お兄ちゃん、どうなるの……?」

 「大丈夫。遼真は何もしていない。絶対に」

 美佐子が必死に言い聞かせる。


 その時。

 重々しい声が署内に響いた。

 「……私の息子は、どこにいる?」


 振り返った署長が絶句した。

 「け、警視総監……!」

 署内が一瞬で凍りつき、署員たちは慌てて敬礼をした。


 入ってきたのは、遼真の父・天城輝政。厳格な眼差しで署長を射抜く。

 「事情聴取をしていると聞いた。今すぐ案内していただこう」

 「は、はいっ!」


 美佐子は夫の袖を掴み、涙ながらに訴えた。

 「あなた……! 遼真は犯人じゃないの、信じてあげて」

 だが輝政は苦悩の色を浮かべつつも、短く答える。

 「私は警察官だ。だが……父でもある。真実を見極めねばならん」


 そこへ慌ただしく駆け込んできたのは、スーツ姿の女性。

 「母さん! 真理亜!」

 遼真の姉、天城玲子だった。地方警察本部長を務める彼女は、妹からの電話で一報を聞きつけ、急ぎ駆けつけてきたのだ。


 署員たちは再び驚愕の面持ちで直立し、敬礼する。

 「警察本部長……!」

 玲子は険しい表情で署長を睨みつけた。

 「私の弟を事情聴取していると聞きました。正当な手続きを踏んでいるでしょうね?」

 署長は額に汗を浮かべ、狼狽していた。


 さらに数分後。

 低い足音と共に、また一人の男が姿を現した。

 「遅れてすまない」

 それは遼真の長兄、天城隆明。警察庁刑事局長(警視監)の重職にある男である。

 署員たちは三度目の衝撃に包まれた。

 「け、警察庁の……局長!?」

 「なぜこんな地方署に……」


 隆明は一切表情を崩さず、ただ冷たい声で言った。

 「弟が疑われていると聞いた。証拠を確認させてもらおう」


 地元署員は一同、畏怖と混乱に呑まれていた。たった数十分の間に、国の警察機構の中枢にいる父・兄・姉が三人も現れたのだ。


 母・美佐子と妹・真理亜、初枝の三人は必死に口を揃えた。

 「遼真は犯人じゃありません! どうか信じてください!」


 だが隆明は淡々と答える。

 「家族の言葉は情に流されやすい。証言としては弱い。だが――俺は警察官として、そして兄として、事実を見極める」


 玲子も同じく、厳しい声で続けた。

 「家族だからこそ、真実を誤魔化すわけにはいかないの」


 美佐子の胸に、深い苦悩が広がった。

 ――家族は、皆警察官。

 だからこそ、息子を庇う声が“最も無力”に聞こえてしまう。


 それでも彼女は、揺るぎない声で言った。

 「遼真は……絶対に人を傷つけたりしない子です」


 その母の言葉に、真理亜と初枝も強く頷いた。


 父と兄と姉は、一瞬だけ目を伏せた。

 ――家族の訴えを信じたい。だが、警察官としては証拠を見なければならない。


 地元署の空気は張り詰め、嵐の前のような静けさが広がっていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ