第2話 消えた花嫁
夕暮れが迫り、祭りは最高潮を迎えていた。
町の広場では屋台が集まり、囃子と太鼓の音が空気を震わせている。
遼真たち家族も人混みの中に紛れ、花嫁行列の行方を目で追っていた。
雅やかな衣装に身を包んだ花嫁は、町の人々の歓声を浴びながら練り歩く。
だが、ある角を曲がった直後――行列の列が乱れた。
「……花嫁は?」
誰かが叫んだ。
白無垢の姿が忽然と消えていた。
人々がざわめき、周囲は混乱に包まれる。世話役や親族が慌てて走り回るが、花嫁の姿はどこにもなかった。
「まさか、誘拐……?」
真理亜が青ざめ、母の美佐子が娘を庇うように抱き寄せる。
初枝は必死に周囲を見回した。
遼真は冷静に視線を走らせた。
――行列の列が乱れた一瞬、確かに白い衣の影が路地裏へ消えた。
その方向へ駆けだしたのは、他ならぬ自分だった。
だが、狭い路地に入ったとき、そこには誰もいなかった。
残されていたのは、花嫁の持っていたと思しき白い髪飾りだけ。
遼真がそれを拾い上げた瞬間――。
「おい! あの人が怪しい!」
背後からの怒声に振り返ると、人々の視線が一斉に彼へと注がれた。
手には花嫁の髪飾り。路地から出てきたのは遼真ただ一人。
「違う、私は――」
弁解の声は人々のざわめきにかき消された。
やがて駆けつけた地元警察が遼真を取り囲む。
「身分を明かしていただこうか」
冷たい声に、遼真はため息をついた。
「……天城遼真。フリーライターです」
だが群衆の中から誰かが叫んだ。
「そいつが花嫁を連れ去ったんだ!」
次の瞬間、遼真は群衆の疑いの視線に包まれた。
――気づけば、自分が“第一容疑者”にされていた。
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