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第10話 古都に朝日昇る


 翌朝。

 雨は上がり、澄んだ冬空の下で鶴岡の森が輝いていた。

 川村は警察に連行され、住職・雲水は深く頭を下げて遼真に礼を述べた。


 「祟りではなく、人の罪と欲望。……真実を示してくださったこと、感謝いたします」

 「いいえ。真実を隠そうとすれば、必ず新たな悲劇を呼びます。それを止められたのは、寺の皆さんのおかげです」


 藤堂修一は意識を取り戻した。

 病床の彼はかすれた声で遼真に言った。

 「……井戸に眠る罪は、我が家が背負うべきだ。過去を覆い隠すことなく、正しく伝えていこう」


 遼真は静かに頷いた。


 境内を後にする時、冬の光が井戸の上に差し込んでいた。

 かつて“亡霊”が現れたと恐れられた場所は、ただ冷たい石積みの闇を湛えるだけだった。


 ――怨霊は存在しない。

 だが、人の心の奥底に潜む欲望や恐れこそが、本物の亡霊となって人を惑わせる。


 遼真は鞄の中から新しい依頼書を取り出した。

 次の取材先は飛騨高山。豪華な祭囃子に包まれる山里で、また新たな謎が彼を待っている。


 冬の古都を後にし、江ノ電の車窓から広がる海を眺めながら、遼真は小さく息を吐いた。

 ――旅はまだ、続いていく。



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