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第6話 祟りか、人か


 古井戸から引き上げられた木箱は、寺の大広間に置かれ、関係者が息を潜めて見守っていた。

 中に収められていた古文書は確かに本物であり、藤堂家の先祖が寺領を奪った記録が克明に記されていた。


 「……やはり、亡霊などではなく、人の罪が隠されていたのですね」

 天城遼真の言葉に、住職・雲水和尚は苦渋に顔を歪めた。

 「しかし、これを明るみにすれば藤堂家は失墜する。寺との関係も断ち切られましょう」


 藤堂家の妻・佳代が唇を噛みしめ、低く言い放った。

 「夫は……このことを隠すために命を狙われたのね」


 その言葉にざわめきが広がる。

 川村喜兵衛は震える声で「祟りじゃ、祟りが二人を襲ったんじゃ!」と繰り返したが、遼真の目は冷静だった。


 「祟りにしては、あまりにも都合が良すぎます」


 彼は皆の顔を見渡しながら続けた。

 「藤堂氏は“真実を井戸に眠らせてはならない”と考え、口を開こうとした。だから命を狙われた。

 そして早乙女氏は、考古学者として発掘にこだわり、井戸を開けてしまった。だから同じ運命を辿った。

 つまり――二人の死を願ったのは、“古文書が世に出ると困る人物”です」


 人々の表情が揺れる。


 「それは誰か。藤堂家の血を庇いたい者か、あるいは寺の権威を守りたい者か」


 遼真の言葉に、全員の視線が自然と雲水和尚に集まった。

 和尚は重苦しい沈黙の後、かすかに首を横に振った。

 「……わたしではない。むしろ私は、いずれ真実は露わになるべきだと……」


 では、誰が?


 その時、遼真はふと気づいた。

 川村喜兵衛が誰よりも強く「祟り」を口にし、人々の恐怖を煽り続けていたことに。

 彼は昨夜、武士の亡霊を“見た”と証言した唯一の人物でもある。


 ――幻影を作り出したのは、彼自身なのではないか。


 「祟りか……いや、これは人の仕業だ」

 遼真は心の中で確信を強めた。


 井戸の闇は、怨霊の影ではなく、生きた人間の欲望を隠していたのだ。



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