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第5話 木箱の秘密


 翌朝。

 冷え込む境内には、なおも規制線が張られていた。

 警察は「考古学者の不慮の事故」と発表したが、誰も納得してはいなかった。


 天城遼真は、早乙女隼人が最後に残したメモ――『井戸の底に……木箱……』という言葉を胸に刻み、雲水和尚に向き直った。


 「和尚。井戸を調べさせていただけませんか」

 「……井戸は封じられてきたもの。掘り返すのは祟りを呼ぶ、と」

 「祟りではなく、真実です。人の命が二つも奪われている。放置はできません」


 強い眼差しに、和尚はやがて静かに頷いた。


 縄を結び、僧侶二人の助けを得て、遼真は井戸の中へと降りていった。

 石積みの壁は湿り気を帯び、底には冷たい水がわずかに溜まっている。

 懐中電灯の光を走らせると――泥に半ば埋もれた木箱が姿を現した。


 「……これか」


 箱は古びており、鉄の錠前が錆びついていた。

 持ち上げると、想像以上に重い。


 地上に引き上げ、慎重に開けると、中から現れたのは――束ねられた古文書と、数枚の古びた刀の部品だった。

 人々の視線が集まり、川村喜兵衛が震える声を上げた。

 「そ、それは……この寺に伝わる“失われた証文”や!」


 文書の冒頭には、藤堂家の祖先がかつて寺領を不当に奪った経緯が記されていた。

 つまり藤堂家が守ろうとした“井戸の封印”とは、祟りを鎮めるためではなく、家の不名誉を隠すためだったのだ。


 遼真は深く息を吐いた。

 ――亡霊伝説の背後には、隠蔽された歴史があった。

 そして、その秘密を暴こうとした藤堂と早乙女は命を狙われた。


 犯人は、井戸の底に眠る過去を守ろうとしたのか、それとも利用しようとしたのか。


 遼真の脳裏に、ひとりの人物の顔が浮かんだ。

 井戸の調査を頑なに拒み続け、誰よりも強く「祟り」を口にした者。


 ――この中に、真犯人がいる。



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