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第4話 井戸の影、第二の犠牲


 その夜も、境内には緊張が漂っていた。

 井戸は鎖で厳重に封鎖され、僧侶たちが交代で見張りをしていた。だが、ざわめきを完全に鎮めることはできない。

 人々の心には「亡霊」の影が深く根を下ろし始めていた。


 天城遼真は、宿坊の縁側に腰を下ろし、冷えた夜気の中で筆を走らせていた。

 ――藤堂は井戸に関する“真実”を掴んでいた。

 ――川村の亡霊証言は恐怖に基づく幻影か、あるいは誰かに見せられた仕掛け。

 ――研究者の早乙女は井戸を掘りたい。藤堂とは対立していた。


 思考を巡らせる中、不意に境内から怒声が上がった。

 「誰か! 井戸の方だ!」


 遼真が駆けつけると、僧侶たちの灯した提灯の光が揺れていた。

 井戸の脇で、ひとりの人影が倒れている。


 「……早乙女先生!?」


 それは考古学研究者・早乙女隼人だった。

 石畳に頭を打ちつけ、血を流して動かない。手には泥にまみれたメモ帳が握られていた。


 住職が慌てて駆け寄る。

 「なんということを……」


 僧侶の一人が震える声で告げる。

 「見たんです。井戸の傍に武士の影が立っていて……早乙女先生を突き落としたように……」


 再び“亡霊”の囁きが人々を覆った。

 しかし遼真は井戸の縁を調べ、すぐに違和感を覚えた。


 ――井戸の縁の石は乾いている。誰かが這い上がった痕跡などない。

 ――だが、地面には複数の足跡。しかも重なって消されかけている。


 遼真はメモ帳を手に取り、走り書きされた最後の一文を目にした。


 ――『井戸の底に……木箱……』


 「……やはり、井戸がすべての鍵だ」


 第二の犠牲者。

 そして“木箱”という新たな手がかり。

 亡霊伝説の背後で、確実に人間の手が動いている。


 冷たい夜風が吹き抜ける中、遼真の心にはひとつの確信が芽生えていた。

 ――これは怨霊の祟りではなく、人間の欲望が仕組んだ連続殺人だ。



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