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第四話「女性刑事の追跡」


◆長野県警本部長の訪問


翌日。軽井沢のホテルの一室には、重々しい空気が漂っていた。

ドアをノックして現れたのは、グレーのスーツに落ち着いた眼差しの男性。長野県警察本部長・石山清暙いしやま・きよはるだった。


「天城さん――輝政殿からすでに話は伺っております」


石山は深々と頭を下げた。その眼差しが玲子を捉えた瞬間、わずかに和らぐ。

「玲子警視正。いや、今は県警本部長殿でしたな。……まさかこの軽井沢で再会するとは」


「石山本部長。父がお手数をおかけしました」

玲子も真剣な表情で応じる。


「いや、私にとって輝政殿は警察人生の恩人の一人です。あなた方を支えることは当然のことです」

石山の言葉には誠実さと、長年の警察官としての矜持があった。


遼真や美佐子も安堵の表情を浮かべた。

――父の信頼がつなげた縁。その強さを改めて実感する。



◆藤堂瑞希との再会


その場に、一人の女性刑事が加わった。ショートヘアに鋭い眼差しを宿しながらも、口元にはどこか柔らかな笑み。藤堂瑞希とうどう・みき、30代後半。


彼女は昨日、軽井沢の街で真理亜に苑香の写真を示した刑事だった。


「……やはり、あなたでしたか」玲子が目を細める。

「覚えていてくださったのですね。本部での研修以来でしょうか」


藤堂の声には懐かしさと緊張が入り混じっていた。

玲子は静かに頷いた。

「ええ。あの時はあなた、まだ入庁して間もなかったわね」


藤堂は苦笑した。

「はい。右も左も分からずに、必死であなたの背中を追っていました。まさか十数年経って、こんな形で再び一緒に動くことになるとは……」


玲子の表情が厳しくなる。

「藤堂、昨日あなたが持っていた苑香ちゃんの記録。あれは、どうして県警の公式データベースから消えていたの?」


藤堂の目が鋭く光った。

「……気付かれていましたか。実は数年前、苑香さんの失踪記録が一部削除されていたんです。誰が、何のために、まだ分かっていません」


石山本部長も口を挟む。

「これは内部的にも大きな問題です。天城さん、あなたの妹君の件だからこそ、非公式に調べたい。……どうか協力していただけますか」


玲子は即答した。

「もちろん。――藤堂刑事、私とあなたで水面下の追跡を始めましょう」


二人の視線が交わり、決意が固まった瞬間だった。



◆真理亜の友人たちとの再会


その時、ホテルのロビーに懐かしい顔ぶれが次々と現れた。

真理亜の中学時代の友人――軽井沢旅行を共にした3人と、その家族だった。


鬼頭茜きとう・あかね:今は短大生。気丈な性格で、母親と共に訪れた。

紫堂弥生しどう・やよい:大学受験を控え、父と姉に伴われて。真理亜とは今も文通を続けている。

桜川秋音さくらかわ・あきね:明るく社交的な少女。祖母と一緒に来た。


「真理亜!」

茜が真っ先に駆け寄り、泣きじゃくる彼女を抱きしめた。

「嘘だって言って……苑香が、そんな……!」


弥生も秋音も涙を流し、声を詰まらせる。

5人で笑い合っていた日々が一気によみがえり、彼女たちはその場で抱き合いながら泣き崩れた。


家族たちも肩を寄せ合い、静かに涙をぬぐっていた。



◆苑香の家族の到着


そして最後に、重苦しい空気の中でロビーの扉が開く。

現れたのは――苑香の両親と、兄、姉だった。


母親は顔を覆い、父親は蒼白な表情で足元をふらつきながらも前に進む。

兄と姉もまた涙をこらえきれず、ただ声を殺して嗚咽した。


「……苑香……」


母親がその名を呼んだ瞬間、真理亜の胸に堰を切ったような涙があふれた。


「苑香ちゃん、ごめん……! 私、何もできなかった……!」


家族と友人がひとつの輪になり、嗚咽がホテルのロビーに満ちていった。

玲子も藤堂も、その光景を静かに見つめながら心に誓う。


――必ず、この謎を解き明かす。苑香の死に、意味を与えるために。



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