表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/118

第10話 稲荷の湯に朝が来る



 山間に夜明けが訪れた。

 霜をまとった木々の枝が朝陽に照らされ、紅葉の残り葉を黄金に染めていく。

 宿の庭先には警察車両が並び、橋爪達郎は両手を後ろ手に縛られたまま車に乗せられていった。


 「宿を守るためだと……? 笑わせる」

 刑事が吐き捨てるように言った。

 達郎はなおも悔しげに口を動かしたが、その言葉は朝の冷気にかき消された。


 帳場に戻った遼真を待っていたのは、蒼白な顔の若女将・美智子だった。

 「……兄が、そんなことをしていたなんて」

 声は震え、瞳には涙が溢れていた。


 遼真は静かに首を振る。

 「あなたのせいではありません。狐火は祟りではなく、人の心が生んだ偽りの炎でした。

 でも、それに怯え、惑わされる人間がいたからこそ、利用する者が現れた」


 美智子は嗚咽をこらえ、やがて深く頭を下げた。

 「宿を……必ず守ってみせます。兄の罪に負けることなく」


 廊下には、古老・源蔵が立っていた。

 「狐火の祟りやない。人の欲が呼んだ炎やった。……やっと、この宿も本当の意味で清められたんやな」

 そう呟くと、老いた目に光を滲ませた。


 やがて宿泊客たちはそれぞれの荷をまとめ、静かに宿を後にした。

 恐怖と混乱は残ったものの、夜ごとの狐火に怯える必要はもはやない。


 天城遼真は、京都駅行きのバスに揺られながら、胸の奥に去来する思いを言葉にした。

 ――狐火は消えた。だが、人の心に燃える欲望の炎は、どこにでも潜んでいる。

 それを暴くのが、自分の役目なのかもしれない。


 バスの窓外、山々を包む朝霧の向こうで、陽光がまぶしく差し込んでいた。

 新たな取材の依頼書が、彼の鞄の中で静かに揺れている。


 次の行き先は――鎌倉。

 古の武士の亡霊が眠る街で、また新たな謎が彼を待っていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ