未来のきみへ
卒業まで、あと三ヶ月。
三人の間にあった微妙な緊張は、まるで初冬の曇り空のように、晴れそうで晴れないまま、時だけが過ぎていった。
それでも、日常は続く。いつも通りの教室、黒板の前で話す先生、窓の外の校庭、時おりすれ違う視線。
あやは、東京の音大の一次試験を突破した。
翔は、地元の短大の推薦を受けた。
涼は、就職を選んだ。
三者三様、それぞれの「未来」が、少しずつ形になっていく。
放課後、図書室の片隅で、あやは一人、便箋にペンを走らせていた。
「翔くんへ
あのとき、屋上で待つと言ってくれてありがとう。
私はまだ、恋と夢のバランスがうまくとれないままです。
でも、東京で一歩踏み出す自分を信じてみたくなりました。
いつか、また会える日が来たら――
そのときの私は、今よりも少し素直で、少し強くなっていたいです。
ありがとう。
あやより」
翌日、翔の下駄箱にそっと手紙が入っていた。
読んだあと、翔はそれを胸ポケットにしまって、そっと空を見上げた。
夕焼けが校舎の窓に映っていた。
涼が隣に立っているのに気づいた。
「……行くってさ。東京」
「知ってるよ。お前に手紙書くって言ってたもん」
翔は、ほんの少しだけ驚いた顔をしたあと、笑った。
「俺たち、どうなるんだろうな」
「それぞれ、進むだけだろ。高校生活が終わっても、人生は終わらない」
「……詩人かよ」
「お前の芝居のセリフ、ちょっとだけ覚えたからな」
二人は笑った。
少女漫画あるあるその55:
「手紙で気持ちを伝えるクライマックス」
少女漫画あるあるその56:
「三角関係の終わりは静かに訪れる」
少女漫画あるあるその57:
「未来の再会を約束するラスト数ページ」
そして、卒業式の日。
桜はまだ咲いていなかったけれど、空は晴れていた。
あやの姿はそこになかった。
でも翔は、彼女の言葉を胸に刻みながら、式を終えた。
未来は、きっとまだ白紙。
でもその白紙を、誰と描くのか。
その選択が、今ここから始まるのだ。