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少女漫画あるある100小説  作者: 牧亜弓
あやの章
20/33

未来のきみへ

卒業まで、あと三ヶ月。


三人の間にあった微妙な緊張は、まるで初冬の曇り空のように、晴れそうで晴れないまま、時だけが過ぎていった。

それでも、日常は続く。いつも通りの教室、黒板の前で話す先生、窓の外の校庭、時おりすれ違う視線。


あやは、東京の音大の一次試験を突破した。

翔は、地元の短大の推薦を受けた。

涼は、就職を選んだ。

三者三様、それぞれの「未来」が、少しずつ形になっていく。


放課後、図書室の片隅で、あやは一人、便箋にペンを走らせていた。


「翔くんへ

あのとき、屋上で待つと言ってくれてありがとう。

私はまだ、恋と夢のバランスがうまくとれないままです。

でも、東京で一歩踏み出す自分を信じてみたくなりました。

いつか、また会える日が来たら――

そのときの私は、今よりも少し素直で、少し強くなっていたいです。

ありがとう。

あやより」


翌日、翔の下駄箱にそっと手紙が入っていた。


読んだあと、翔はそれを胸ポケットにしまって、そっと空を見上げた。

夕焼けが校舎の窓に映っていた。

涼が隣に立っているのに気づいた。


「……行くってさ。東京」


「知ってるよ。お前に手紙書くって言ってたもん」


翔は、ほんの少しだけ驚いた顔をしたあと、笑った。


「俺たち、どうなるんだろうな」


「それぞれ、進むだけだろ。高校生活が終わっても、人生は終わらない」


「……詩人かよ」


「お前の芝居のセリフ、ちょっとだけ覚えたからな」


二人は笑った。


少女漫画あるあるその55:

「手紙で気持ちを伝えるクライマックス」


少女漫画あるあるその56:

「三角関係の終わりは静かに訪れる」


少女漫画あるあるその57:

「未来の再会を約束するラスト数ページ」


そして、卒業式の日。


桜はまだ咲いていなかったけれど、空は晴れていた。

あやの姿はそこになかった。

でも翔は、彼女の言葉を胸に刻みながら、式を終えた。


未来は、きっとまだ白紙。

でもその白紙を、誰と描くのか。

その選択が、今ここから始まるのだ。


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