恋と進路とベンチの距離
文化祭の熱狂が過ぎ去って一週間。
秋の風が冷たくなりはじめたある放課後、翔とあやは公園のベンチに並んで座っていた。
木々の葉が風に舞い、彼女の髪がそのたびに揺れて、翔はそれを見ているだけで言葉を失っていた。
「ねぇ、翔くん。進路、どうするか決めた?」
「うーん、正直、まだ……。でも、舞台の仕事とか、演出とか、興味はある」
「そうなんだ」
あやは小さく頷いてから、自分のスカートの裾を見つめた。
そしてぽつりとつぶやく。
「私ね、東京の音大、受けようと思ってるの」
「東京?」
翔は驚いた。あやの夢は知っていたつもりだったけれど、それが現実味を帯びていることに、今になって気づいた。
「うん。本気で、歌の道、やってみたくて……。だから……」
翔は、続きを聞かなくてもわかっていた。
「だから、遠距離になるかもってこと?」
あやは静かに頷いた。
「そうか……応援するよ」
本心を押し込めるように、翔は笑ってみせた。
そこへ、涼からのLINEが届く。
「明日、話がある。屋上、放課後」
翔は画面を閉じると、あやに言った。
「俺、ちゃんと涼とも話す。三人で、変なままじゃ嫌だから」
あやは、ほっとしたように微笑んだ。
その笑顔を、翔はいつまでも覚えていた。
そして、翌日の放課後。
屋上には、三人がいた。
秋の風が強く吹いて、空は限りなく高かった。
「なぁ、そろそろ、はっきりさせないか?」
涼の声は落ち着いていたが、どこか震えていた。
あやは深呼吸して、一歩前へ出る。
「私、翔くんが好き。でも……涼くんのことも、大切。だから、ごめんなさい。選べないの、今は」
沈黙。風の音だけが、空を渡る。
翔は微笑んだ。
「じゃあ、待つよ。俺、今すぐ答えが欲しいわけじゃない。あやが決めたとき、それが答えだ」
涼も頷く。
「俺も、それでいい。でも、簡単には譲らねぇけどな」
三人は静かに笑った。
あの舞台の日の緊張も、今はもう遠い。
少女漫画あるあるその51:
「進路の話題が急に恋愛を加速させる」
少女漫画あるあるその52:
「ベンチに二人で座ると何かが始まる(or終わる)」
少女漫画あるあるその53:
「告白の先にある“保留”という選択肢」
少女漫画あるあるその54:
「三角関係、終わったと思ったら続く」
そして物語は、ついに最終章へ向かう。